タイル。石。土。煉瓦。木。ガラス。鉄。サルバドーにとって、それらすべてが芸術を作り出すためのマテリアルであった。画家の男が手にする絵筆、絵具、木炭、キャンバスであるように、まるでばらばらのものたちから、ひとつの美しい存在を作り上げる。もしも自分が、その存在の側で息絶えることがあるならば、それは決して悪いことではないのではないか。画家の男は漠然とそう思っていた。

サルバドーのアトリエの埃の積もった床には、一見すると朽木のようなものが転がっていた。琥珀色にひび割れた表面が、使い込まれたオーク樽に似た鈍い艶を放ち、それと相まって、床に広がった染みは乾いた赤ワインにも見えた。だがその朽木は、確かに人間の形をしていた。衣服を身につけている。左手の薬指には銀の指輪がはまっている。今はもう空洞となった眼窩、鼻孔。口腔には整った歯列が覗く。朽木に見えるそれは、アトリエの主、サルバドー・ドメネク・イ・ヌーニェスの枯骸であった。

このアトリエは、霊峰から下りる乾いた風がよく通るよう、新鮮な空気がよく巡るよう造られていた。サルバドーがそれを好み、望んだからだ。サルバドー・ドメネクを今の姿に至らしめたのは、他ならぬ彼自身であったのだ。

画家の男は、転がる父の死体を気にも留めずに、書物を読みふけっていた。

花を飾る様子を見守る。花を褒められるとなんだか嬉しかった。

以外な名前が出てきて、一瞬ぽかんとしてしまう。

少し、画廊を見回してから、もう一度ペドロを見る。
聞こうかききまいか迷ったけれど、やっぱり唇を開くことにした。

薄っすらと刃についたを血液を散らすように得物を振り払う……。