その日の進行が終わった午後３時、王城内の空き部屋を確保して夕食の準備に取りかかったシュガーの耳元に安徳帝の霊の声が聞こえてきた。隠世の出来事が映るシュガーの浄眼には青い炎が映り、その耳には水底の竜宮からの声が届く。

シュガーが瞑目してこの世とあの世を繋げる術式を履行すると、青い炎のただ中から、山鳩色の御衣を着た男の子が立ち現れ、うむうむご苦労とシュガーを労う。

同じく暇を持て余していたアニマが（おもしろそうな事のにおいをかぎつけて）やってきた。安徳帝の霊とアニマはすぐに意気投合してと王城内の探検の計画についてあーでもないこーでもないと盛り上がってた。

シュガーにしても遊ぶ気満々の２人を押し止めることは不可能だと分かっていた。「夕飯までには帰ってくるように」と約束をとりつけ、ため息をまじりに２人を送り出した。シュガーが進行に伴って城内のあちこちに魔力連絡線となる結界を設置したおかげで、彼ら２人の童の霊は、ちょこちょこと廊下を進み、何食わぬ顔をして階段を登り、あちこちの部屋に忍び込ぶことが可能となっているのだった。

城内は霊的にカオスなこととなっている。常人の肉眼でもゾンビやエンブリオが徘徊する有り様が観察できるわけであるが、隠世や幽界の住人でもあるアニマや安徳帝の眼には、それ以外にも、死霊や精霊や妖精や悪魔や天使や宇宙人といった存在が、あちこちを闊歩しているのだった。

アニマと安徳帝の霊はなるべく騒がしくないところへ探すことにした。

石畳の階段があり、その先に青空が覗いていた。アニマと安徳帝の霊は、蒼空目指して階段を登りきり、広々としたテラスへ出た。人気もなく、騒がしいゾンビも、他のエンブリオもいない。アニマがテラスの手すりの上によじ上ると、広々とした大草原の彼方に山地が見渡すことができた。日差しは眩しくぽかぽかな陽気ではあったが、澄み渡った青空には巻雲が浮かび、彼方の山地の山腹はすでに紅葉が始まっているようだ。

アニマと安徳帝の霊はテラスの手すりの上を猫のごとく伝って歩く。そうしてテラスの一角のテーブルと椅子が並べられた箇所にたどりついた。そこは展望台のような場所で、植木が整然と列柱のごとく並んだ広庭の様子や、合い向かいになった兵舎の間にロープに吊るされた洗濯物が風に揺らぐ様子などなどが、眺められた。

誰もいないと思っていた展望台だが、先客がいたようである。アニマと安徳帝の霊が声のするほうを見やると、テラスのテーブルに白い老夫婦が座っていた。彼らは白い長衣の上に亜麻の一枚布の外套をまとっており、髪の毛も真っ白なのだった（おじいさんのほうは髭も真っ白である）。

何者だろうか？と安徳帝の霊は白い老夫婦をしげしげと眺め、合点がいったのかうむと頷く。老夫婦が透けて見え、その姿の輪郭が風に揺れる様から、アニマも安徳帝の霊に耳打ちする。あの人たちって幽霊ね、と。

白い老夫婦は、ああ、そうなの、それは安心ね、こんにちは、お嬢さん、ぼっちゃん、と丁寧な言葉で応えた。白い老夫婦の物腰は上品で気品があるようだ。王城内は異界冥界ごった煮で幽霊死霊が闇鍋状態で（霊的に）騒がしいのだが、こうして穏やかに挨拶を交わし合える人達に出会えたのは、アニマにしても安徳帝の霊にしても新鮮であった。それは相手も同じだったようで、アニマと安徳帝の霊は老夫婦のテーブルにお招きを受け、しばしお話をすることになった。

白い老夫婦は安徳帝の言葉遣いに首を傾げたが、

アニマに注釈の言葉にああなるほどと頷く。霊魂同士のコミュニケーションは銀河の彼方までユニバーサル対緒済みではあるのだが、互いの文化に馴染みのない言葉を使うと、時々、理解が及ばないこともある。

確かにこの展望台から眺めやる景色は素晴らしい。アニマと安徳帝の霊も納得であった。王がこの地に王城を立てたのも頷けるというものだ。

青い空には馬の尾ごとき流線を描く白雲、彼方の山地には紅葉しはじめた森林、目を凝らせば黄金色の田園に、と、浮世の輝きにあふれている。あの山の名前は某であり３匹の竜が守り、星降りの山は夜中眺めるのが美しい、などなど、白い翁と白い嫗はメルンテーゼの風景について解説を加えてくれる。アニマと安徳帝の霊はふんふんと頷いてその語りに聞き入ってしまう。

安徳帝の霊とアニマは老夫婦に平家の怨霊が住まう竜宮城について話をする。海中の空はアクアブルーや緑色であるが、地上ほどまばゆくはない。魚は豊富で、鯛やハゼやメバルに蛸、時にはイルカなども眺めやれ、周辺を散歩してそれらを眺めるのはそれはそれで面白い。老夫婦はアニマと安徳帝の霊による竜宮についての話を興味深く聞いていた。

アニマもギリシア風な衣装を着ており海中の宮殿に住まう者であるためか白い媼にはそう思えたようだ。アニマはアニマで平家の竜宮にはちょくちょく入り浸っているので、平家の竜宮と黄金宮殿は別物であると手振り身振りを交えて色々と力説する。曰く、セトアイランドシーはベリーナローで、タトーカイ、しかし、タコやセキサバがうまいとかどーとか。しかし、白い老夫婦はその語り口にますます２つの海底宮殿の共通項を見つけてしまい、安徳帝の霊は瀬戸内海が地中海に似ているとか、瀬戸内海が小さすぎてちょいと恥ずかしい気分なのであった。

その後も白い老夫婦とアニマ達は空を見上げてメルンテーゼの果物や星や雲や織物などなど色々な話題の会話を楽しんだ。そうしている間に日も傾いて夕暮れが近づいてきた。風が冷たくなり、王城の尖塔の影が長く伸び、彼方の山地が橙色に染まっていく。

安徳帝の霊とアニマはそろそろ帰ろうと頷き合って席を立つ。安徳帝の霊は白い夫婦に向き直り、楽しい会話の一時についてお礼を述べ、いつか機会があれば翁らを我が竜宮へ招待したいものだと述べ伝えると、白い翁も媼もええ是非にと応じた。穏やかなしわがれ声であった。アニマと安徳帝の霊は老夫婦に手を振って別れを告げ、元来た道を戻り、階段を下っていく。

安徳帝の霊はアニマの手を引いて先導し、無事にシュガーの部屋まで辿り着いたのだった。

その頃、王城のテラスでは白い老夫婦が暮れゆく太陽の最後の残照を眺めていた。扉が開く重々しい音の後に石畳を革靴が叩く乾いた音が聞こえてきた。トロイアの英霊を召喚する謎のシスターがテラスを歩いていた。シスターは白い老夫婦に恭しく一礼すると、白い老夫婦は頃合いかとばかりに席を立つ。シスターの背後からトロイアの英霊へクトールの霊が姿を現し、白い老夫婦を出迎える。

その様子を謎のシスターは笑みを浮かべて見つめていた。白い老夫婦はトロイアの王とその妻、老王プリアモスとその妻ヘカベの霊であった。

両手をたててブンブンとふり

と、口では強がりながら、すり足で鬼火から距離を置いていると

ゆっくり歩いてきたウィスプが頭を下げました

ひそひそと聞こえないように3人で話している・・・・ｗ

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シュガーは怨霊と会話をしているようです

シュガーは怨霊と会話をしているようです…

シュガーは時々意味不明なことを呟きますが、
　怨霊と会話をしているのです。気にしてはいけません。

シュガーの周囲に目に見える形で鬼火が飛び回る…

シュガーはパロロコンを介して『宗盛の霊』の具現化に成功した！