（本日はシュガーのライバルである謎のシスターの視点の日記となります）

シスターの（書類の）お仕事

トロイアの亡霊を率いる謎のシスターは王城内の廊下をツカツカと歩いていた。処理が遅れ気味の書類の決済のために、王城内の執務室を巡っている最中なのだ。向かった先は王城の食糧政策関係の部局であり、部署名を示す札が掲げられた大仰なドアを開けて中に入ると、スーツや作業服を身にまとった役人達が、熱心に業務に励んでいた。時刻は11時を回り、昼食前の仕事がのっている時間帯のようだ。

どこの誰が意思決定したのか、そもそも意思決定などされていないのか定かではないが、一揆衆の進行に関わらず王城の公務員の業務は放棄されていない。さすがに、戦闘の激しい大廊下沿いの部署は疎開を始めたようだったが、それでも多くの役人が城内に残り、業務を継続していた。どの部署も一揆衆への対応に追われて忙しい限りだったが。

シスターは部屋の外周をぐるりと回り、つかつかと執務室の一角に向かった。そこには格調高いデスクが配置されており、食糧政策局長である若き青年が部下の相談を受けていた。シスターは彼らの会話が終わるまでしばらくその様子を眺めていることにする。局長は爽やかな印象の眼鏡の青年であり、彼より年長の部下に手短にアドバイスを続けていた。彼はおそらくメルンテーゼでも高名の教育機関を卒業し、また、若くして功績があったのだろう。

局長と部下の会話は終わり、シスターは書類を部長に見せてサインを求めた。書類は城内を護衛するアンデッドのメンテナンス用の薬液に関するものであり、具体的には、シスターは近隣の教会の醸造用の施設を用いて、アルコールと燃料を手に入れるつもりなのだ。書類はその手配書である。

青年はふむと頷いてサラサラとサインを行う。あちこちの部署を歩き回って説明を続けてきたシスターにとって最後の関門だったわけで、ほっと一安心である。局長のサインの入った書類を使い魔に預けて回覧ルートに乗せると、シスターの午前中の仕事は終了というわけだ。

シスターはアンデットの管理の他に城内のデスクワークをこなさなければならない。しかし、人間の組織では（蟻や蜂と違って）作業の指示には書類が必須であるし、公務員の仕事は公文書として残していかねばならない。うんざりで面倒な仕事だが、必要な仕事であるとシスターは我慢することにしていた。

局長も一仕事終わったか、書類をトントンと整えていた。シスターもちらと局長の様子をうかがう。すぐそばの大廊下には一揆衆が迫り、日々、王城の領域を争って戦闘が行われているというのに、メルンテーゼの住民はのんびりしたものですね、と、シスターは呆れ半分驚嘆半分といった心持ちなのであった。

独り言のように呟く局長の言葉には何か感じるものがあったシスターは、少々ぶしつけとは思いつつ素直な質問を投げかけてみた。局長も何気にすることなく返事を返し、シスターと局長との間にしばしのあいだ会話がとりなされた。

お昼時を告げる鐘が鳴り響き、執務室の雰囲気が弛緩しはじめた。シスターと局長の青年との会話もまた昼休憩ということで中断される。局長はランチボックスをとりだし、部下に紅茶を入れてもらえるよう頼んでいた。ランチボックスには手紙が添えられ、局長はそれを読んで何やら顔を赤くしていた。

何度もかけられたであろうお祝いの言葉に局長ははにかんだ笑みで応えた。シスターは局長ともっと話をしていたい気分ではあったが、一礼して退室し、大廊下を自室へと向かう。午後には一揆衆との戦闘が始まるため、アンデット部隊の配置を確認しなければならないのだ。

廊下を歩きながらシスターは思う。一揆を起こした市民には市民なりの言い分があるだろうし、局長の指摘するように王のネクターの独占は失政である。しかし、一揆の結果として、王城が灰燼に帰し、メルンテーゼの社会を支える有能な士が散り散りになることは、避けなければならない。それは不幸で無用な損失であろう。

シスターは思い出す。とある国で革命が起った時、その混乱の最中、欧州でも優秀な化学者がギロチンで処刑されてしまったことがある。それはその国にとっても、人類にとっても、大きな損失であった。そんな無用な損失はメルテーゼの人達の誰も幸せにしないだろう。

シスターはちらと自らの脇の虚空の空間をみやった。その隠り世を映すその瞳には、トロイアの将兵達の決意に満ちた瞳が映っていた。その意志は１つ。王城とそこに働く人々の暮らしを守り、社会の秩序と安定の維持に寄与する事であった。

一揆衆に義あり、そしてまた、王城の守護者にも義あり、である。

シュガーは怨霊と会話をしているようです

シュガーは怨霊と会話をしているようです…

シュガーは時々意味不明なことを呟きますが、
　怨霊と会話をしているのです。気にしてはいけません。