夜半、シュガーは１人王城内の２階の部屋（役人の執務室）に忍び込み、この国の官僚機構で作製された公文書を調べてみることにした。一揆に役に立つ情報の入手と純粋な好奇心による行動であった。執務室への潜入ルートは予めエンブリオを斥候に出して計画しておき、夜半、平家の怨霊を護衛にして部屋へと潜入するのだ。

メルンテーゼの政治体制についてシュガーは詳しくはない。ほとんど無知といってもよかった。書類を読む事でメルテーゼの政治体制や、何かしら王の所在について記載があるやもしれぬ。王城側に潜入が気がつかれては大ピンチであるが、王の所在についての情報が得られるのならば、冒すリスクには釣り合うだろう。

シュガーが忍び込んだ部屋は、役人の机が並ぶ方形の部屋であり、その机は綺麗に整理整頓されている。その部屋には一際格調高い机が１つ離れて配置されており、シュガーはそれがその部屋で最も地位の高い者の席であると判断した。机には鍵がかかっていたが、仕組みは簡単なものであり、シュガーは器用に器具を用いて解錠してしまう。

シュガーはデスクから書類のパイルを取り出し、随行した知盛の霊と手分けして順に読んでいくことにした。来年度の予算の草案、公共事業の計画、穀倉地帯の収穫予想、一揆による収穫への影響調査、一揆衆へ対抗するための兵士への糧食計画…などなどであった。

書類に一通り目を通したが、『王』という単語すら見当たらない。進入した部署がどうやら農政関係の部署であり、この国の政体的には王と関連の薄い部署なのかもしれない。また、この階の役人の地位では、書類に王の裁可など必要のないのかもしれない。

シュガーは自問した。では？　どんな部署ならば王との関連が深くなるのだろうか？　軍事や警察関連の部署ならば、王と関連が深くなるのか？　あるいは、宗教に関連する部署であろうか？

シュガーは急ぎ書類を整頓してデスクに戻す。書類の束を整理する途中で、席の持ち主のものと思われるメモ書きが目にとまった。

「ベルクレア騎士団の動向に注意すべきこと」

ベルクレア騎士団なる者達が一揆衆とは別に王城内に出没しているらしかった。ベルクレア騎士団とは、強力な戦闘力を持つ構成員から成り立ち、その行動原理は不明、様々な世界で宝物や神秘を求めて活動しているらしい団体である。

騎士団の一揆への介入の目的は判然とせず、シュガーにはどうにもその出現が不気味なものに感じられてしょうがない。だが、様々な者達の思惑が入り乱れ、一揆はその混沌の度合いをさらに増しているようにも感じられる。シュガーにはそのような事態は好ましいように思えていた。

鍵を閉め直して、シュガーは窓から退散する。2階から降りるのにザイルは不要、シュガーは平家の怨霊の目を借りて城の壁面の小さな凸凹を足がかりに、壁を下り、音もなく引き上げて行った。

夜道を歩きながら、しかし、シュガーは顧みる。この国の『王』はこの国にとってどのような存在なのか？　王は政治的な存在ではなく、何か特殊な地位なのかもしれない。聞くところによると、王城の4階より上は礼拝堂らしく、この国の『王』はどちらかといえば、政治権力のない中国の皇帝、あるいは、やはり政治権力を持たない法王のようなものなのかもしれない。

王の力は王城の守護者達に作用してその力を増幅するという噂がある。それが真に王の力であるとするならば、まるで何かの力場であり、王は自然や神々と比肩しうる力の持ち主と言えよう。この世界はそのような存在を頂く世界なのかもしれない。

シュガーは夜空を見上げる。澄んだ待機に月が煌煌と輝くそんな夜空であった。シュガーは祈るように思う。王がどのような存在であれ、一揆がどのような結末を迎えるにせよ、その結末は皆で見届けてからメルンテーゼを離れたいものだな、と。

ぶらりぶらりと歩いていた金髪の少女はすこし驚いた様子でした。
その後しばらく些か呆けた様子だったが、あーうん。と一息つくと、向き直り挨拶をしました

ということで、こんにちは。と軽く頭を下げて微笑みました

若干不可解な問いを発しました

にこやかな顔でこちらをみる貴方を少女は怪訝そうな表情で見つめ返すが
なにか思いついたように言葉を飲んだ

シュガーは怨霊と会話をしているようです