広庭での敵勢エンブリオを掃討したシュガー達はいよいよブランチマン戦に挑むことになった。ブランチマンは元・王国騎士団副団長にして、城内の大廊下への侵入経路を守る王城守護の要である。

晴天の下、花咲き乱れる通路を、３人と一匹（？）のシュガーたち参戦者が歩いていく。黒猫に先導された3人のキリリとした顔が横並びに連なっていた。

たどりついた広場には赤毛赤眼の大男が従卒を従えて待ち構えていた。ブランチマンと庭ガールである。彼らの背後には巨大な城門が見える。門を守る者と門をくぐりたい者。異なる意志が相対する時、戦闘は避けがたい。

シュガーは瞑目して冥府とこの世をつなぐ術式を履行する。シュガーの瞳が異界を見通す魔眼へと変貌し、因果の連なりが仄かな発光の軌跡として映る。シュガーの鼻腔を磯の香りがくすぐり、足元に鬼火が立ち上るのが見えた。海の底の龍宮城から、平家の怨霊たちがシュガーに加勢するべく続々と参集する。赤毛赤眼の大男から赤いオーラが立ち昇るのが見え、まるで大地を揺らして噴火する火山のよう。

そして、戦いを前に、海風とともに平家の怨霊たちの思念もまた、シュガーの首元へと風のごとき肌触りで届くのだった。敗走した屈辱を雪がんと欲する暑く湿った山風、戦いの虚しさを訴える乾いた冬の風、前途を悲観した冷え冷えとした夜の海風。

シュガーの脳裏に波間を彷徨う平家の者達の悲憤の思いが様々に蘇る。波間を漂い飢えや渇きに苛まれ、戦に破れて子や親が打ち取られ、あるいは未来を悲観して入水する。それはさながら六道の諸相で展開する苦しみのパノラマであった。

シュガーの胸底に傲然とした憤りが湧き上がり、シュガーの瞳に禍々しい闘志の炎が宿る。どうして平家は若武者たちは壇ノ浦で海の藻くずとならなければならなかったのか。どうして、何の罪もない者達が、時として戦争や災害に苛まれ、死んでいくのか。

何かの因縁が原因だったとしても、どうして親の代から続く争いごとや不和によって、子や孫が海の藻くずと消えて行かねばならないのか。浮き世の物事は最初から無も同然であり、栄えたものもまた衰え、無に返すのか。ならば、人の一生とはなんなのか。

怨霊の思念を身体一杯に受けたシュガーは、それ故に、理不尽な浮き世を呪い、憤り、抗う。ネクターの独占を欲する新王は、メルンテーゼ市民にとっては半ば理不尽な天災のごときものであり、その理不尽さは正さねばなるまい。

戦意を十分に高揚させたシュガーは、徐々にブランチマンとの間合いを詰めて行く。ほどなくして双方の前口上が始まり、戦闘へと突入するだろう。シュガーの耳元へ、平家の怨霊の声に混じって、冥府からの声も届く。

強大な敵に対して戦意を極限まで高めたシュガーには、冥府の声に対して気の利いた返答をする意志も、その余裕もなかった。相対する敵を睨み、徐々に間合いをつめるなかで、ニヤと笑みを浮かべるのみであった。

シュガーは怨霊と会話をしているようです

ハチェットのカバーを外す。硝子の青い目が揺れた。

シュガーは怨霊と会話をしているようです…

シュガーは怨霊と会話をしています…

シュガーは怨霊と会話をしています…

溶けて広がっている……