シュガーたちは広庭での戦闘で王城の兵士たちに勝利した。その後、シュガーたちの一行は水辺に向かい、その日はそこでキャンプすることになった。

日も暮れて夜風が涼しく、月も昇って川の水面がキラキラとまばゆい。森と山岳での激戦で疲れてはいたのだが、久方ぶりの勝利に気を良くしたシュガーたちは、夕食後にたき火を囲んでコーヒーやお茶を飲みつつしばしくつろぐことになった。

シュガーはパーティの面々を見渡してみる。しぶい声の黒猫（黒月）と銀髪の女性（アイリス）とが会話をしており、女性のユーモアあふれる受け答えに、たれ目の朴訥な青年（エクレム）が時折笑いをこらえている、といった様子だった。シュガーは思う。しばらく行動を共にしてきたが、このパーティもだいぶこなれてきたものだ、と。

のんびりと風を楽しみ、ゆらゆら揺れるたき火の炎を眺めていると、精神が研ぎすまされていく。今日もいつものように、シュガーの耳元には冥府からののんきなコメントが届く。秋日の青空のように明るくすっきりとした女の子の声だった。

パーティの面々は、突然つぶやき始めたシュガーを見て、ああまたいつもの独り言か、と、気に留める風でもない。大人な対応というやつだった。

シュガーは瞑目して考える。一揆軍の方針として、糧食の関係から、エンブリオ以外の捕虜はとらないことになっていた。また、戦闘はエンブリオを介して行われるため戦死者がでにくい。損耗という概念が希薄なため、双方の戦力は強化される一方であり、戦闘の激しさは加速するばかりであろう。

冥府からの声のトーンが少しだけ変わる。のほほんとした口調が少しだけ真剣味をおびる。

確かに、とシュガーは唇をかむ。

そして、すぐに冥府からの声はいつもののほほんとした調子に戻る。

だんだんと冥府からの声が遠くなっていく。やれやれとため息をついてシュガーは顔を上げる。すると、パーティのみなはシュガーに対して訝しげな視線を雪いでいた。シュガーはしまったな、と唇をかむ。スパイや内応者といった不穏な会話をしすぎたか？　みなは神妙な口調でシュガーに問いかけた。

シュガーもふと顧みて思う。ラリアンヌって、誰だっけ？　シュガーがきょとんとしていると、パーティの面々は丁寧なことに色々指摘してくれたわけだった。

普通に言い間違えだと思う、とシュガーはぼそりと呟くと、パーティの面々に笑みが浮かび、ハハハこやつめといった顔をした。シュガーは思った。笑われて不快には感じないのは、自分もパーティになじんできた証拠かもな、と。結局、シュガーも笑うことにした。色々と愉快な気分だったのだ。月夜の水辺でたき火を前に輪になって笑う。一揆の合間のしばしの休息であった。

ハチェットのカバーを外す。硝子の青い目が揺れた。

シュガーは怨霊と会話をしているようです…

シュガーは怨霊と会話をしているようです…