[SummerVacation]　−夜の部−


水辺で花火があがるらしい。
そんな話を聞いて祭りの見物に移動して来た一行と、立ち並ぶ屋台を物珍しげに眺めていた。
自分が居た場所ではこんなに大々的な祭りは行われていなかったし、店の数もここまで多いものははじめて見た。
イゥーツィーにとっては祭りという物自体がはじめてのものになる。
もちろんその存在自体は知っていたが、近くまで寄って見ることはなかった。
人の姿をとらなければ来ることもなかっただろう場所だ。
そもそも竜の姿では、人から見れば決して小さいとは言い難い体だ。
人混みの中を行き来するのは不可能だった。
花火は見晴らしのいい場所で見ることはあったが、これはその時に見るものよりもっと数も多いらしい。
美味しそうな匂いのする屋台のまえであしをとめ、ついついその食べ物が出来上がるさまを眺めてしまう。

。

声に口を閉じ振り向けば、いつもとは違った格好の一同が見える。
所々浴衣というものだ。
いつもと髪型も違うからか、それぞれの雰囲気もどこか違って見える。

もちろんこの服もはじめてのものだ。
イゥーツィーの服装は和装に近いものだが、やはり着慣れないものは勝手が違うか、着せ替え人形のごとくじっとさせられて着せてもらったものだ。
ところでイゥーツィーは竜から人になっている訳だが服はどうしたのか。
もっともな質問であるが至極答えは簡単だ。
元の姿が服を着ていない訳ではないのだ。
犬猫だって毛があるように、それが服なのだ。
超厚着をしている奴も居る訳だが、本人の体温調整に支障がなければ問題はないだろう。
毛がないやつが着てるか着てないかは想像に任せるとして…。

一体いつもはどんなもの食べてたんだろう…と考えて、多分肉類なんだろうなという脳内での一瞬の結論に一同は到達する。
折角だしと、それぞれお勧めの食べ物をすすめてみる。

結局お祭り初心者のユーチーを連れ、食べ物は分けたりしながら楽しむこととなった。
まずはたこ焼きから。
たこ焼きとは地球だ！とかどうとかライナが騒ぎ出したので、待ちきれず出来たてのたこ焼きを一気に口に頬張り、結果大ダメージを受けた。
症状、火傷。持続ダメージ。

涙目になりつつ訴えるイゥーツィーに、ライナはだからマントルに注意っていう話をしていたのにと苦笑いだ。
しかも火傷しつつも次はと冷ましつつ口に入れるのだから。
火傷の痛み＜美味しいもの、なのである。

一瞬犬を想像したが、犬はライナ…失礼、彼女は狼だった。

赤く色づいた氷を受け取ってキラキラとしている表情を見るに、さっき言った事は事実なのだろう。
今度は早く食べ過ぎないようにという注意を守りつつ食べて、それでも耐え切れなくなったか多く食べたあたりでアイス頭痛を起こしていた。
初めて見るものは食べ物だけではないらしく、遊びの類にも興味津々だ。

グイグイとレクイエムの袖を引っ張り来たのは射的屋。
確かに彼向けの屋台であるようにみえる。

そうは言いつつもいくつか景品を落として、彼自身は食べない飴などを周りに渡していた。
そうして周りながら、もうじき花火の時間。
水辺近くにはそれを見るための人が集まっていた。
ヒューという音が聞こえ、次いで鳴るどーんと言う大きな音とともに広がる火の花。
目を大きく開け、イゥーツィーはその光景をただただ眺めた。

こんなに近くで見たことのなかった花火は、暗い空を一瞬眩い光で照らし、また暗くなる。
様々な形と色の花が咲く。
その中にはいくつか見たことのあるような形も見受けられた。
またみんなで花火が見れるといいな。
いくつもあがる花火を満喫して、祭りは幕を閉じるのだった。