…帝国から持ち出してきた資料は、これらが全てだ

ご丁寧に…色々記録してくれてたわけか。
とはいえ、今はこれに縋るしかないというのが何とも皮肉なものだけどね…

私一人で見た時は見落としてしまっていたが…。
やはり、鍵となる内容は幾らかあるようだな？

とはいえ…それらが絶対に通じる保証はないじゃないか。
効き目がなければ…その時点で勝負は決する。
……もう、それと心中するしかないだろうけどね

それより…僕の方はだいぶ馴染んできたけれど、ラルクゥの方はどうなのさ？
疲労の蓄積は、きっと下手な武器を常時振り回すよりも大きいだろう？

まぁな。だがこの程度で根を上げるような鍛え方はしていない。
…あの短い年月で、私が何百人の兵を育成してきたと思っているんだ？

そうか…頼もしい限りだよ

しかし…思い返せば、そっちも戦争の被害者なのにね。
敵国の将に侵攻部隊の育成を任せるだなんて…狂気の沙汰としか思えない

まともじゃない連中の考えることなど気にしても無駄だ。
それに…もう帝国は滅びた。後は同じような無茶をする連中が二度と出てこないことを祈るだけさ

しかし…随分と覚えているんだな？
あの当時のお前は、シオンと共に尋常ではない量の情報を短期間で強引に叩き込まれていただろう。
それに私もディルも、そのような話は一度もしなかったはずだが？

……ちょうど今こうしてるように、各人員の出身地や備考などをまとめた資料を読んだからさ。
記憶能力はそこそこ高いみたいだから。
これも一つの肉体に複数の精神を込められた影響…なのかもしれないけど

……やはり、一般的な異能者と比べても相当に能力全般を高められているのだな。
人造異能者とやらは

だろうね。
……急にどうしたのさ？そんな話、今更

聞け

私は…お前達に。
いや…あの部隊に所属していた同僚達にさえ決して教えなかったことがある

今更ながら…気付いたのさ。真の意味での協力を請うには、全てを打ち明ける必要があると。
それはお前に対してでも例外ではない。無論…咎人に対してもだ。
私の動機に絡む話を隠していて、納得行くであろう説得をできるはずがないからな

ラルクゥ…何を言ってるんだ…？

私が帝国に…。
あの部隊に加入し、お前達と協力関係にさせられたのは。
ある意味では…必然だったのさ

それじゃ…先に進もうか

……儂はそんなに甘えん坊ではないわい。

それが、主殿が力を求めるに至った原動力、か。

確か、以前旅した島の探索時に出会った奴が身体をくれたのじゃったな？
面影が似ておるというからには、係累か。あるいは身体を作れるということから考えると……。

話を聞いただけで、全てを理解った気になるのは間違いであろうが。
のう、トガノよ。それは、そなたを粉々にした相手がまた『逢いにくる』と云うたのと同じではないか？

つまり次に出会うた時、悪意も一切なく殺されるのは儂ということか。

呵々。ハルシオンのミコトをからかってやりたいのは山々じゃが、今は遠慮しておこう。
せっかく彼が主殿を気にし始めたというに、儂など現れては興が醒める。
そなたがミステリアスだからこそ、奴も愛想をつかせずに傍へ置いておるのじゃろ？

むしろ儂は、あの女将軍に逢いにいってみたいのう。
儂があの娘ならば、主殿の意思など関係なく、強制的に裏切り行為に巻き込むであろうさ。
例えば、『今だトガノ。奴の動きを封じろ！』だとか一言混ぜるだけで注意力を分散できる。
その結果、主殿が犠牲になることを奴は厭うまい。そういう性格と見たが、どうじゃ？

むろん、他の策を弄しておる可能性もある。真実、主殿のことを信用している可能性も、な。
ただ、無粋な策に利用されるのは主殿も本意ではなかろ？

ハルシオンの方は、主殿に任せるさ。
何やら掴みかけておるようだし、これからどうなるのか、先が視えぬ故に少し楽しみじゃ。
儂の居ないところで勝手に殺されるでないぞ。泣くからな。

……どうやら左腕に宿る御仁は、明るい性格を持った女性のようじゃのう。
どうやら儂を認めてくれたらしい。ふふ、嬉しいのう。仲良くしてたもれ？

儂が殺されたならば、"るーむしぇあ"させてもらうとしよう。

儂は、主殿を弱くしてしもうたのかも知れん。
そなたに愛する心を抱かせられたことに後悔はないが、そなたを守りに走らせてしまった気はしている。

我武者羅に格上の"無敵"へ戦いを挑めばいいわけではない。
故に回り道をすることで、直情的ではない、婉曲的な力の使い方を学ぶことは出来るじゃろう。
じゃが、の？　儂はそなたの形振り構わぬ力の求め方を否定したことはないぞえ。
それも含めて、トガノという男を愛したのじゃ。決して、儂を守らせるために愛したわけではない。

のう、主殿よ。
そなたは儂を道具として使わぬと言った。従属ではなく、隣に並ぶことを求めた。
それはつまり、儂は主殿と同じ位置で、同じ方向を見ても良いということなのじゃろう？

良いではないか。気が済まぬことがあったのなら、気が済むようにしようではないか。
生きる目的は幾つあってもよい。そなたの左腕も、そなたが命を懸ける価値のあるものと儂は思う。

……共に強くなろう、我が主よ。
儂は飾り花ではない。そなたの愛する女であると共に、そなたの隣で牙を研ぐ猛狐ぞ？

……いいでしょう。
ハルシオン様の世界の特産品として、確かに受け取りました。

今日はどこに行くのかな

…………