またひとつひがおちる。
　かつては確かに灯されていたものが。

　けれど吹き消えれば、誰もそのことを思い出しもしない。
　ひとつ、ひとつと。
　塗り重ねられた一日の向こうに、それを正しく蘇らすものなどありはしない。

　過去とは決して。
　そこにあったことを明かせない暗がりの時間だ。
　もはや二度とは触れられない。
　鎖された扉の、その戸のかたちさえ。

　


　もはやどこにも欠けはなく、歪みもない輪郭をとってなお、動かすと見せかける身体のどこかに、わずかの軋みを感じるように思われた。
　それは奇妙な実感だった——なるほどこれが、傷を負うということなのかと彼は考えた。
　その真似事と言えども。
　どれほど繰り返しても。

自分の左目に、手を添える

手で、眼球をつかむ。

少し力を入れて引っ張るだけで、眼はすぐに取れた。

取った目玉を、ヤールの方へ差し出す。

一瞬緊張した表情を見せるが、すぐに元の微笑みに戻る。