***nanika


『お疲れ様です。これでお仕事終わりです』
「うん」

　結末を見届けるという当初の目的は果たした。
最前線では色々とややこしいことはあったようだが、少なくともこの世界は続いた。
うっかりしていたら自分達の世界も国がひとつくらいは無くなっていたらしい。怖い話だ。
　しかしこれで不都合は出ないだろう。あとは帰るだけ、

『と、言いたいところなのですが』
「うん」

　そういかないのがこの世の常。知ってた。

『物凄い経済崩壊が起こりそうなんですけど、心当たりないです？』
「うん」

　ある。この世界に来た当初と比較して露骨に膨れた財布。
明らかに過剰な量の通貨が出回っている。一体どれだけ王城に溜め込まれていたのやら。

『ちゃんと聞いてます？』
「うん」

　半眼になりながら声に応える。

『帰る前になんとかしといてください』
「うん、無理」

　こいつは私を政治家か何かだと思ってるのだろうか。



* * * * *



　けっきょく、予定を延長して滞在することになった。
もちろんさすがに、経済を操れなどという無茶振りはされなかったが。

「さすがに遠い」
「ですね」

　舗装のされてない森の中を、荷物を万歳した古いオフロードバイクで走りながら愚痴る。
鞄にぶら下がっているキーホルダーが同意した。
　こういう移動は慣れてるが、最初の目的地まであと二週間はかかるらしい。普通にしんどい。

「私に観光する気がなかったら無視して帰ってた」
「そういうのは、ちょっと」
「まあ、観光客は本業だしがんばりましょう」
「そうだったんですか」
「そうだったんですよ」
　
　いろんな世界から人と物が集まったのもあり、こんな足が手に入ったのは救いだった。
　この世界はまだ慌しく、そんな状況でも小回りの効くこの手の乗り物は便利。

「観光客っていうのもけっこう難しい仕事だからね？たとえば------」
「長くなりそうなのでいいです」
「どうせ暇なんだから聞きなさいて」

　延長戦のメルンテーゼ巡りはまだ続く。
　先の一揆より忙しくなりそうなことに気付いて、彼女は軽く苦笑した。



「しかし結構便利ね、バイクも。帰ったら免許取ろうか」
「えっ」

　キーホルダーがうめく。

「いや、自分の世界の免許持ってても、他の世界に行ったら紙クズだし」
「免許ってそういうものじゃないんですけど！」

　彼女はアクセルを回した。
　同時に叫び声が聞こえた。