「ううむ……」
「どうしたの教授？いつもは不必要なまでにテンションが高いのに。」
キャレットの遠慮ない発言は無理もなかった。
さすがに男所帯に泊まりこむのは問題があるため一緒に暮らしてはいないが、
パーティの方針決定のための会議には当然顔を出すし、そもそも教授とは馬が合うため
むしろ生徒二人よりも会話は多い。
教授の人となりは十分に把握している彼女である。

「いやなに。ちょっと問題がな」
対する教授も、気にした風もなく応答する。
というより、教授は利害の絡まない罵倒に関しては非常に鷹揚である。面の皮が厚いともいう。

「どうしたの？はっ、まさかあのキョンシーが実は男の娘だったとか！？」
「残念ながら別じゃ」
なぁんだ、とあからさまにテンションを落とすキャレットに辟易した様子の鳴丸が声をかける。
「いや、流石にそんな勝手な判断で期待を膨らませられてもですね」
「遠からずだったりするんじゃこれが」
「分かりましたもう口を利きません」
「そう拗ねるな。ほれ、そもそもアレを使役しておった何とか言うネクロマンサーが居たじゃろう」

水を向けられ、生徒が答えを返す。
「居ましたね、えーと……ラザロですっけ、先生が嫌いなタイプですよね？」
「ラズロだよスラント君」スラントの頭を引っ張ってツッコミを入れる鳴丸だが、
そのじゃれあいを見てキャレットが目を輝かせていることには相変わらず気づかない。
「うむ、そのスカしたネクロフィリアだが、ああいうのが聖人ヅラして闊歩しているのは気に入らんのでな、ちょっと奴の性生活でも暴露して人前に出られんようにしてやろうかとおもってキョンシーに聞いてみていたのだが」
「あいかわらず自分を正しいと信じて見下してくる相手にはえげつない手で返しますね教授。……で、ダメだったと。」

うむ、と頷いた教授は珍しく落胆と失望の色を露わにしていた。
「あのキョンシーな、そもそも性的な知識が殆ど無い上に普段は棺桶の中で眠っていたので奴がどういう生活をしておったかすら全然知らんのだと。しかもだ、身体は腐ってはおらんが死後硬直で固まっておって乳も全く柔らかくないのだ！」
ドン、と机を打ち叩き、憤懣やるかたない様子の教授に対し、
後半の全く関係ない失望に絶句している鳴丸と、いつもどおり聞き流し我関せずと茶をすすっているスラントだったが

「ふっ……何かと思えばそんなことかしら！」
動じもせず流しもしないのが彼女であった。
「ふむ。ではどうするのかね？」
「簡単よ。暴露する話がないのなら、はじめからフィクションだとわかった上で、イメージをもたせればいいの！」
「つまり？」
「あの手の顔は、間違いなく鬼畜攻めよ！」
ごん、と大きな音を立てて鳴丸が机に突っ伏した。スラントが恐る恐る、といった風情で問いかける。
「えーと、それを……流布すると？」
「少し違うわね。ラズロ鬼畜攻めという可能性を、多少啓蒙してみるだけよ。一度火がつけばあとは何もせずとも盛り上がるわ。いいえ、あんな素材が見過ごされるわけがない……！」
「あ、つまるところ趣味なんですね」
もちろんよ、と胸を張るキャレットと、うんうん、と頷く教授。
二人の顔が輝けば輝くほど、スラントの頭は痛くなるのであった。




作戦が成功に終わったかどうかは、ご想像にお任せする。