——未だ知らぬ道を教え合う。
見知らぬ道を歩いて、教わった道を辿った。
その帰り道、サダクビアの面々との合流地点までを、2人で歩く。
視界の端で、花が揺れる。
黙々と。淡々と。一歩ずつを踏みしめる幼子は、多くを語らない。
合わせた歩調は長くずれなかったけれど、不意に一歩分の距離が開く。そこで休憩を持ちかけると、花は先より大きく揺れた。
木陰に腰を下ろして、ミルフィアとラザラスが持たせてくれた包みを開く。
道中食べられるように、持ち運びがきくようにとの気遣いだろう、細かく刻んだ果物を練り込んだビスキュイは口の中であまくほどける。
水筒の中の2人分のお茶は、飲むには熱すぎない程度に温かく保たれている。イリーシャの魔法だろう。
一つ目のビスキュイを食べ終えたところで隣に座る子を見下ろすと、ふっと視線が重なった。
「マグ、今日はよく頑張ったわね。えらいわよ」
頭に手を乗せて、ゆっくりと撫でる。
ほんの僅かだけれど口元が綻んだのが見えて、ほっとする。
「……うん。ぼく、役に立てたかな」
「勿論！マグがいてくれて心強かったわ。知らない人と一緒は苦手でしょうに。一緒に来てくれてありがとうね」
「…レイが、いたから」

「ぼくひとりだったら、行きたくなかった。行けなかった。…レイと、一緒だったから」

はにかんだように一言一言を紡ぐ姿にじんわりと胸があたたまるような心地がする。ただ微笑んでもう一度頭を撫でたら、不意にこちらを見る目が丸くなった。
「……？」
「ん？どうしたの、マグ」
「……レイ、目が」
「目？」
「…あれ……？」
ぱち、ぱち、と。大きな目が、二度瞬く。変化の薄い表情に、それでも戸惑いが滲む。
どうしたのかともう一度促すと、たっぷりの逡巡の後、躊躇うような声がこぼれた。


「…ええと、ね。レイの瞳、銀色に見えたんだ」


光の加減なのかな、今はいつもと同じ金色なんだけど、と。
続いた言葉が、少し遠く感じる。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


無事6人との合流を果たし、一息つく。
空を見やれば遠くにぽかりと月が浮かんでいる。
——この世界にも、月はある。元居た"扉の世界"と同じ、黄金にも白銀にも輝く光はただ静かに其処にある。

メルンテーゼを訪れてから、一月近くが経とうとしている。
月は満ち欠け、最初に訪れた時と同じかたちだ。


掌を上向け、指を折って。ぐっと力を込めて強く握ってはまた開いて。
腕を畳んだ状態でぐるぐると前後左右に回して。
——所謂、「準備運動」のような動作をいくつも細かく繰り返す。
身体には、今のところ違和感はない。
「随分念入りだな」
同僚の少女が、素材の検分の手を止めてひたと此方を見る。
目の前の素材にばかり集中していたと思ったら、成程敏いところがある。
「そうね、組んだことない人と一緒はやっぱり少し緊張したし。しっかり身体をほぐしておかないと」
「一理ある。…塔は、どうだった」
「食事の後にでも詳しく話すわ。記録はきっちりつけてきたから」
探究心旺盛な少女はそれでひとまず納得したらしい。再び素材の検分に意識が戻ったのを見てから、視線を落とす。
「…ふむ。異常なし、かしら」
"影響"が出てくるとしたらそろそろなのだけど、と、そちらは殆ど声に出さずに開いた掌を暫し見つめる。そう、異常はない。
首を捻りながら、何とはなしにその腕を軽く後方へ振った、刹那。

「うおっ！？」
「わあ！笊が、っ」

ひゅ、と軽い音と共に、風が抜けた。

「……あら？」
「なんだ今の風。今の今まで静かなもんだったのにな」
「旋風、でしょうか」
「あーあー、せっかく洗ったのに…野菜全部洗い直しだよ、もう。イリーシャー、水ちょうだーい！」
「なんじゃ、汲んでおいた分では足りぬか」
凪いだ空気が急に駆けた事ににわかにざわつく面々の中、イリーシャの目がちらと此方を見る。
小さく肩を竦めて見せると、呆れたような咎めるような視線が一瞬。
まあ待ってほしい。とは、その場では口に出さずにおく。


その騒動の最中。
レイの瞳が青銀に染まっていたことは、誰も気付いていなかった。

(黄色い包み紙に包まれたPSを差し出した。ゴツゴツしている。山吹色のお菓子、と呼ぶには通貨が適していないようだ)

　　　△　　土　▲
　　（　㊤　皿　㊤）　　がしゃーん
　　（　　　　　　　　）　　　　　　
　／│　　塊　　│＼　　　　　　　　　がしゃーん
＜　　＼＿＿__／　　＞
　　　　┃　　　┃
　　　　＝　　　＝