眩暈がした。




力が抜けた気がした。




欠かさなかった研磨を忘れた。




——どうやら、そうではないらしい。


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軽やかな音を立てて薪が爆ぜる。
一分の隙もなく組まれたそれがからりと崩れた。
「嬢やの一族は月の名を冠するのじゃったか」
「ええ。幾つか…部族とでもいうのかしらね。幾つかの集合があって、それぞれが違う姓を名乗るの」
「ふむ。ということは家族単位の姓は存在せぬのかえ」
「そうねえ、そもそも家族って感覚が結構希薄だと思うわ。同じ名前を持つひとみんなが家族。でも全員と血が繋がってるわけでもない。…説明が難しいわね」
野営の薪を挟んで、雪夜の魔女はふむ、と頷く。納得して、というよりは確かめるような、そんな仕草で。
「冠する名に依って性質が違う？」
「ご明察。うちの一族はものの力を引き出すのが得意…っていうのは話したかしら」
「うむ。——なるほど。引き出せる力の系統が違うということじゃな」
「流石、察しがいいわね」
「薪を組むのと似たようなものじゃ。組み合わせれば自ずと形が見える」
そこで、ふつりと声が途切れる。薪越しに、視線が絡む。
「もう一つ、一族全体の特徴ってのがあってね」
相槌はない。
沈黙が、そっと続きを促す。
「月は、陽の光を受けて光るもの。——一族一人残らず、周囲の環境の影響を受けやすいのよ。とんでもなくね」
「………」
「勿論あたしも」
「…具体的には？」
「感情が不安定になる子、一つの力が暴走しやすい子。魔力がどんどん変質してく子なんてのもいたわね。色々よ」
「……ふむ」
「まあ、不安定になりやすい分、安定させる術は身に着けてるつもり。それでも、……何もないとは言い切れないし、まあ、一応イルには話しとこうと思ってね」
そこまで言うと、返答を聞かずに立ち上がった。


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ゆらり、ふわり。
空が揺れる。

ふわり、ぐらり。
世界が回る。

ぐるり、世界がひとめぐり。
月は満ち、欠け、形を変えて。
そしてまた、最初の形に戻る。


冴え冴えとした、まだ少し冷たい夜気の奥。
それは初めてメルンテーゼを訪れた夜と、同じ形をしていた。

ほんの数秒、間を置く。