双刃が地面に落ちる音が、いやに大きく響く。
柄を握り直していたはずの手にはまるで力が入っていなくて、掌はからっぽだった。


——負けた。


膝を付き、そのまま蹲りそうになるのを堪えて、転がるように地面に背を付け天を仰いぐ。


元々勝機なんて無いに等しかった。
それでも勝ちたかったし、負けたくなかった。

肩で息をする相棒が、逆さに映る。
おつかれさん、なんて軽く言っているけれど、それなりのところまで追い込めたはずだった。
——何が足りなかった、何処が余計だった。
ぐるぐると巡る思考を遮るように、何時もと同じ声がして、咳払いが一つ。
そうだ、勝った相手のいうことを一つ聞く、と約束していた。
有耶無耶にしてけむにまくことなら容易いけれど、それをするのは断固として許されない。
それは「正々堂々」とはかけ離れているし、真正面からぶつかった、この悔しいけれど何処か清々しい疲れにすら不誠実なことなのだから。
さてどんな厄介事を頼んでくるのか、と身構えながら、疲労に動かない身体は地に投げ出したまま、問う。

「忘れる訳ないじゃない、約束だもの。何でも言いなさい」
「おう。実はな、」
にい、と口角が上がるのが見える。まっすぐ金の瞳を見る。
「レイにゃ武器だの防具だの色々作ってもらったけどよ、
そう言うんじゃなくて、たまには手料理の一つも食ってみたい訳よ」

思いもよらない言葉に、目が丸くなる。

「っつーわけで、何か得意な料理の一つでも振舞ってくれよ。楽しみにしてるからさ。…な？」

……何を言われたのか、一瞬理解できなかった。
何処か照れくさそうに。幾らかの期待を交えて。
一体何を言うかと思ったら、そんなことを？

「…ばっかねえ」
「なっ…」
「なんでも、って言ってんのに。そんなことでいいわけ？勿体無い使い方すんのね」
「お前なあ、」
「いいわよ」
「へっ？」
「作ってあげるって言ってんの」
「お、おう」
「あんた、好きな食べ物は」
「肉」
「知ってる」
「おい」
「…あー、ラズに聞いたほうが早いわね」
「おい！」
「ま、楽しみにしてなさい。そのうち用意しとくから」
「お前なあ、話を！」

短い言葉の応酬が、心地良い。
自然と口元が緩んでいた。


「やっぱりアンタとだと楽しいわ」

それと同時に出た言葉は、さて、相棒の耳に届いたか。

（まじまじとキュウリを見つめ、数秒思案して）