——それは庭師を倒した夜のこと。


少女がふわふわと踊るように歩いていた。
その様子を眺めながら、レイは空を仰ぐ。
己と同じ名前を持つ光が、静かに浮かんでいる。
白金の髪を揺らしながら、少女が口を開く。
『ねーえ、レイ』
「なあに、チーカ」
『チィね、わかってるよ』
「…んー？」
要領を得ない言葉にレイが首をひねっても、チーカは気にした素振りもなく歩き続ける。
レイは眉を顰めて視線だけでチーカを追う。
『レイは速くて、器用。作るのが上手。力はそんなに強い方じゃないけど弱くもなくて、だけど魔法はからっきしなの』
「…はは。そうねえ、大正解よ」
『だからね、レイ。チィね、わかってるよ』
チーカはくるりと振り返ってレイを見る。幼い少女の姿の妖精は、無邪気な笑みを浮かべて胸を張った。

『チィはレイのちからになれないって、わかってるよ』

「………チーカ」
『チィはレイがほしい力はあげられないの。レイはチィのちからを全部つかえないの。わかってるよ』
「………そうね。あたし、魔法はダメだから。あんたに力を借りたって、借りた力を上手に使えない。ごめんね」
『レイ、かなしい顔しちゃだめ』
ふわり、ふわり。
軽やかな足取りでチーカが歩み寄る。距離が詰まる。
少女の表情はただ柔らかい。
『だからね、チィ、かんがえたの。チィのちからがレイの役に立つ方法』
「！」
『レイアにね、チィのちからをあげるの。そうしたら、チィのちからはレイアのちからになって、レイアのちからはレイが上手に使えるわ』
「…あんた、まさか」
『チィがそうしてほしいのよ』

沈黙が流れた。それは数秒だったかもしれないし、数分だったかもしれない。
たっぷりの時間を置いて、レイは深く、深く息を吐く。
「……わかった。チーカ、あんたのちから、レイアにあげてくれるかしら」
『うん！』
絞り出した言葉とは裏腹に、少女の声は明るく弾んでいた。




——それは月の冴えた夜のこと。
　　その日、白銀の小鳥の尾は白金に染まった。

（手袋を着用する