うわぁ、俺の問い掛け完全スルー。
　まぁ、確認のしようは無いのだが恐らく此処は俺の夢の世界なのだから、顔を見ても名前すら思い出せないこの少女のこともきっと何処かで見たことがあるのだろう。
　そうでなければ、俺の記憶の中だけで絵描き出されているだろうこの世界に、“見ず知らずの少女”が紛れ込むはずはないのだから。

　——しかし、この少女は今何と言った？
　妙な体のだるさと、不自然に感じる体の重み——少女の言うように、それは確かに俺が此処最近抱えていた体調不良の悩みではないか。しかも大体1週間ほど前くらいからという期間も見事に当たっている。

　変な心配は掛けまいとした俺なりの配慮だったが、机でうつ伏せになり少し休憩をしていた時にうっかり意識を飛ばしてしまうというミスを犯し、エアナにだけは余計な心配を掛けてしまったのだが…人に興味を持ち始めたとはいえ、エアナが俺の体の不調を察し、パーティメンバーや他のエンブリオたちに相談を持ち掛けたり、——ましてや俺すら知らない赤の他人にその事を相談するなんてことは以ての外だろう。
　——ならば、何故この少女は仲間内ですら知らないであろうその事を、期間まで的確に言い当てることが出来たのだろうか？

　言い当てられた…、まぁよく考えれば俺は自分で、仲間内にも話していないトップシークレットだぜ！なんて喋っちまってるんだがら、その事をどうしてお前が知ってるんだ！！——という風に問い詰めようとするのは至極当然の流れだろう。王道だ。

　目の前に居る少女は、とても素直にそう頷いてみせた。
　重力の流れに従うように垂れ下がっていた両手のうち、右腕を持ち上げて人差し指を口元にあてがう。その姿はまるで、どう説明したらいいのだろうか？と思考を巡らせているかのように感じられた。
　少女のその一連の仕草に、投げられた問いには答えるつもりではいるが、今は少し待っていて欲しい。という意思を感じとれたため、俺は静かになった少女に同じ問いを更にぶつけて畳み掛けるのではなく、少女から口を開くのを待とうと口を噤むことにした。



　片足をくの字に曲げて少し楽な体勢を取り、両腕を胸の前で組む。背面に壁があったならば間違いなくもたれ掛かっていただろうが、背面にもたれ掛かれるような壁があるのか無いのか解らないこの世界では、大人しく立っていることしか俺には選ぶ選択肢が無い。
　それでも一度背面を振り返ってみたりして、けれどやっぱり漆黒の闇が覆うだけの無限大な世界が視界に入ってくるだけで、俺は困ったように笑った。まぁ勿論、その笑い声は声に出さず、胸に秘めるのだけれども。

　視線を元に戻すと、視界に入ってくるのはあの少女の姿。まだ相変わらず、口元には指が添えられている。
　俺と同じ真っ黒な髪を高い位置でツインテールにしている…よく見てみると、そのツインテールは俺がよく目にするツインテールより細めであることに気がついた。どうやら左右のサイドを少しだけ結っているツインテールのようなもの？らしい。
　前髪は長い。どれくらい長いのかと言えば、片目が前髪にすっぽりと覆われてしまい伺うことが出来ないほどに、長い。
　しかし逆に、もう片方の目はそれはもうしっかりと存在している。見えない方の目を犠牲にして、見える方の目の上からその長い前髪を分けているせいだろう。
　目。黒みを帯びた赤い色。何処か力強い光を放つ——血のような瞳。その目の形は大きく、つり目なため、大人びた雰囲気を醸し出しているように感じる——と、ここまでじっくり少女を観察していたため、閉ざされていた口がゆっくりと開くその瞬間を、俺は見逃さなかった。

　どちらにしろ、貴方には話さなければいけないこと…なのだろうけれど。——と。
　やはり何処か大人びた雰囲気を纏う少女は、口元に当てた指を重力に従ってそっと、下ろした。









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