揺れる視界のなか、ずっと天井を見ていた。

身体にこもった熱は、ゆっくりと冷めてゆく。
胸にかかる重みに堪えるように息を吐きながら僅かに身じろぎした。
身体の奥に残る感覚は、まだ生々しい。
途中痛いほど強く握られた左手も、今はただ重ねられたように力は抜けていた。

赤い色の髪をした少女の姿が頭に浮かぶ。
そしてその姉、双子の兄の姿。
自然と唇がごめんなさいと動く。
声は落とされず、涙が滲んだ。

サラミス。
自分を攫いに、と言ってくれた彼の言葉を、自分は裏切ってしまったことになったのだろうか。

差し出された多くの手。
自分はどれをとればよかったのだろう。
どれかを選べば、誰かが傷を負う。
逃げればよかったのだろうか。
けれど、何もかもを投げ捨てる勇気も自分にはなかった。

胸の上にあるアールの頭の髪を、そっと指で梳く。
この人は、これからどうなってしまうのだろうと、天井からその視線を白い髪に移した。
陽が明ければ別れがくる。
もう、会えることはないのかもしれない。




まだ少し荒いその息遣いに、彼の生を感じた。
———やっぱり、寂しいと思った。

少女はソワソワしている。

少女は肩で息をしている。