ざくざくと、慣れぬ道を歩いて行く。メィレー達と一度離れて水の匂いを目指す。
力になってくれるエンブリオが居ると聞き水辺を目指しながら、
途中で同じく別れてしまったルドの姿を探す。
いつもと少しだけ違う様子に見えた彼はどうしたのだろう、と。
簡単に会えるわけはないが、直感と本能で動いているからきっと会えるだろうと何処か根拠のない確信と共に、歩を進める。
辺りに視線を巡らしていて足元まで気を配れず。ぬかるんだ道にぐらり、軽く体が傾く。
「あ」
声を出した時には時すでに遅く。肩に乗っていたドライアドのハルニレもきゃあ！と悲鳴を上げ一緒にころりと落ちる。
瞬間。
ぱしり、と腕を掴まれる。顔を向ければそこに居たのは白い髪の青年。
いつも興味なさ気にしているヒツジのぬいぐるみ——シツジのルアルの人の姿だった。
きちんと手には仔リスの姿のハルニレも拾い上げている。もっとも落下に驚いて目を回しているが。
「有難うございます」
笑い、礼を告げればいいえ、と言葉短く返ってくる返事。
体勢を立て直しながら気絶しているハルニレを受け取りながら、普段自ら喋らない青年が、少しの間を置いて口を開く。
「——というのは」
「……え？」
「ハルニレが、ヘム、と貴女を呼ぶのは」
己より背の高いルアルを見上げ、言われた言葉に少し考える。
「普通であれば、クローシェと呼ぶ方が自然では」
ルアルから見れば、ハルニレとクローシェは自分よりも昔からの知った間柄だ。
なのに春楡の精は、主を名前ではなく別の呼称で呼ぶ。ヘムロックの事だとは分かるが、あの人懐っこい少女が何故わざわざ
主の事をその名前で呼ぶのかが理解できず。単純に不思議に思っての、言葉。
「昔は、そう呼ばれていたんです」
「クローシェというのは、後からつけて貰った名前ですから」
その事ですか、と納得言った様に穏やかに笑う。
それはどういう、と口を開こうとしたところで、ぱちり、仔リスが目を開く。
「人の声がするっ。聞き覚えのある声！」
その言葉に思わずルアルとクローシェは顔を見合わせる。
「続きは、また今度」
ふ、と笑って青年よりも先に足を踏み出す。隠そうと言う気は無いらしい。
相変わらずよくわからないと思いながらも、青年は静かに後をついて行く。
人の気配と、それ以外の気配を感じたが故、ぬいぐるみの姿には戻らないままで。

　

　
　くいくいと袖を引き、楽しげに水辺を浮遊するエンブリオの一つに、軽く息をつく。
　仲間達は何処にいるのか、思いながら周りを見渡して——不意に、二人の人影が眼に入って、それで眼を瞬かせる。
　

　
　もうひとり。そういえば何度か顔を合わせているのに、名前も聞いていないし名告ってもいないと思い至る。そちらにと思った時に、不意に物陰から物音が聞こえて、そしてあれ、と声を上げた。

水辺で視線を巡らせる。別れてしまった仲間の様子がどうしても気になって。
自然探す様に視線を巡らせて居れば

ようやく見つけた仲間の姿にほ、と笑う。次いでヤサカともう一人の青年へも
視線を移し会釈をしようとしたところで

杖を手に然りと握り、一歩前へ。
娘は、同じく前列に立ったルド達を見、笑う。

今回は自分は守り手ではない。だからこそ傍らの仔リスへとそっと声をかける。
くるり、肩から降りた時には仔リスは人の少女の姿へなっており

仔リスから変化した、にこにこと屈託なく笑う小さな女の子がそこには居た。