その白い塔の足元に着いて脚を止めてみると、見上げる背は思ったよりも高い。協会から真東に抜ける大通りに面した巨大な両開きの扉が大きく口を広げているのが見えて、＊＊＊は瞬きながらそれを見つめていた。＊＊＊がそれを見て、倣うように塔を見上げる。
「……何か気になるのか？」
「いえ、そういうんじゃないんですけど……協会の書庫塔の時も、ちょっと思ったんですけど」
　そこで、言う彼女の、今は紅く色の変わっている両眼が二人を向く。手は塔を指差した。
「……少し揺らしたら崩れそう、って、ちょっと思いません？」
　一拍の間、そして呵々と笑い声を上げた＊＊＊＊がその背を軽く叩いて、＊＊＊は眼を瞬いてその彼と＊＊＊とを交互に見上げる、結局何も言わないまま脚を踏み出した二人のすぐ後ろにくっついて、そうしながら＊＊＊はほんの少しだけ眉根を寄せた。
　
　
　

　
　どうした、と、彼の声が聞こえる。振り仰いだ先、翡翠が不思議そうな表情を浮かべているのには、いえ、と緩やかに首を振った。
『……"塔"を、初めて見たのは、』
　その初めて見る塔の足元に着いて脚を止めてみると、見上げる背は思ったよりも高い。遠目に見るよりもずっと。
『もう、いつだったか……』
　後ろから手が伸びてくる。頭を乱雑に撫でられる。苦笑した。
『……好きじゃないんです』
「知ってるよ。中に入れば、もう見えないだろ」
　そうですねと、吐息を吐き出す。向かう彼の背を追う。
　
　——あの魔導師は、安らかだっただろうか。
　

羨ましい、と聞いた次には、そう申し出ていた。

　そうだな、と少しだけ悩ましげに眉を寄せる。直ぐに思い付いたのか、ぱあっと笑顔を浮かべて。

　四大それぞれの一族がいたりだったり、三つの派閥があってややこしいことになってるだったり、思いつく限りの事を楽しげに語って聞かせ。

　そう、首を傾げて問う。
　腕に抱かれたエンブリオと言えば、まるでそれにじゃれるように、小さな手を伸ばして掴もうとしながら、きゃっきゃと笑みを浮かべている。

　——続いた言葉には、そっと、息を呑んで。

　そう、目を伏せて呟いた後、くしゃりと表情を歪ませる。

　そこまで、一息に言って。頭を振った。言おうか言うまいか、悩んでいるような。そんな様子で。