グリゴリはベッドに腰掛けてじっとしていた。

動かない足ばかりを見ていると、視界の片隅に蛍のような光が見える。
怪訝に思い、僅かばかり顔を上げる。光は瞬く間に円陣を形作り、そこから見覚えのある女が姿を現した。

突然の事に呆気に取られる。
何かを口にする前に、”黒い森の魔女”は手をかざし、静止を促す。

次に会った時は、必ず地べたに這いつくばらせるつもりだった。
しかし、突然の事に感情に身を任せ損なってしまった。

——自分を治療するために、部外者を招き入れたと聞いている。
心当たりは、そう多くない。

運の良い女だ、と思いながら、黙って「お願い」を聞く。

舌打ちをひとつ漏らして、乱暴にばりばりと頭を掻いた。

ちらりと祖母の顔が頭を過る。
構わない、は言いすぎたかもしれないが、滅んでも、それはそれで仕方がない。

声の調子が、一段低くなる。

　

女の華奢な手首を掴み、ベッドに引きずり込む。
覆い被さるようにして逃げ道を塞ぎ、額がぶつかるほどに顔を近付ける。

そこまで本気ではないのか、それ以外の理由か。
手首を掴む手からは、以前、肩を掴まれた時程の力は感じられないかもしれない。

不便が無いように上手く誤魔化しているが、片足が動いた様子は見られなかった。
肩を撫で、鎖骨を少しだけ指先でなぞった後に、手のひらが胸部に向かう。
その手に荒々しさは無く、どこか引き摺るようだった。

以前は魔女の姿をしていた女性、雰囲気が変わった姿を認めると
ヘクターは少し驚いた表情をした。

言及するのも失礼かと思ったのか、短い挨拶だけ返す。
その後続けられた言葉を黙って聞き終えると、彼女が立ち去る前に口を開いた。

女性の顔をまっすぐに見据えてそう言った後、去る姿を見送った。

　そう言ってユディタの戸惑う声にフフ、と小さく笑った

　手の平の上にあった重みが、違う手に移る
　それはどんなに単純なつくりでも、どんなに小さくても“武器”だ
　指を引けば、生き物が死ぬ　　破壊する事ができるモノ


　お題なんていらないわ、なんて返しながら女はユディタの背に回り
　そこから銃を構える手に自分の手を包むように重ねた
　真っ直ぐ腕は伸ばされる　その先には目標

　一つづつ大事なポイントを教えながら形を作る
　その指を引き金に誘う

　促すように声を出す

　さあ、引いて

　高い音が反射して響く
　グッと手を強く押される感覚がするだろうが、反動はそう強く無いだろう

　木を見れば、狙った位置のやや上に控えめな小さな穴があいている
　穴の回りから細く白い煙が上がっていなければ、虫が喰った穴と間違えるくらいの