今まで契約して、私が面倒を見たエンブリオは、全部で9体。
猫や馬、魚人、物騒な蛇やら鬼、はたまた霧状の何かまで種類も様々だったが。
謎が多過ぎて研究は滞るばかりだと、坂本は言っていた。

そこに舞い込んだ猫型エンブリオ…シュレディンガーさんの変化は、
滞りがちな研究に差し込んだ光だったらしい。

もちろん、ただの猫がいきなり姿がガラッと変わるまで成長し、二足歩行まで始めるのだから、大発見なのだろうが。
そこよりももっと身近な大革新がある。

今までのエンブリオと違って、言葉で意思疎通が可能になった事だ。

…こうして、理由がデートだか何だろうと研究熱心な坂本は、相反してやる気のあまり見受けられない腐肉をふん捕まえて、
何故か侍調に話すようになったシュレディンガーさんへと歓び勇んで質問の嵐を振りかけている。

…とは言っても、シュレディンガーさんとて研究者ではないのか契約やエンブリオなどの詳しい事は知らないみたいだったが。

ふいに視線を感じる。
腐肉がのっぺりとしたぬいぐるみの顔をこちらに向けていた。

…？？何だろう。　余計な事を言ったとか、そういう訳じゃない筈。
言うどころか、目の前で繰り広げられている話が専門分野でも無い私は、ただ話を聞いてるだけなのだから。