「はじめてのおつかい」は何だったろう。

家の料理担当のおばあちゃんが大量に買い溜め派だったからか、あまりお使いした記憶はないが
私の場合は確か「コンビニへレポート用紙を買いに行ってくれ」だった気がする。
両親が学者だったから納得といえば納得なんだが、今思っても絵にならない「はじめてのおつかい」だった。

時が立つこと十数年、今現在めでたい訳もなく「魔法使いの助手」なんてものをやるようになった訳だが。
そこで初めて受けた「おつかい」が、「一揆関係者からメモにあるものを買ってきてくれ」である。

今手元にあるメモの内容から買ってきたものを見る。

…袋の中には、たくあんとその辺に転がってそうな石が入っている。


拝啓　パパへ

パパも大学の講師だから、助手という立場の人に関わる機会もあると思います。
その時は、あまりわけのわからない、困らせるような仕事は振らない様にしてあげて下さいね。


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何に使うんだコレ。

袋の中身を半眼で見つめながら、天気の良い川沿いを歩く。
たくあんは…まあ、百歩譲って好きなんだとしよう。でもこの石は何なんだ。
見た目にも店の人の反応にも決して価値があるようなものには見えなかった。その割に地味に重たいから腹が立つ。
これが坂本や腐肉たちの仕事に関わる何かだとして、「魔法使い」というものがますます理解の範囲から遠ざかっていく一方だ。


今まで照っていた日がふっと途切れた。太陽が雲で隠れでもしただろうか。
その割には影がはっきりと落ちたような…何の気なしに振り返った先。

蛇と言うにはあまりにも大きな、角の生えた竜と言った方が良いような生き物がこちらに鎌首をもたげていた。

叫び声も上げる間も無かった。
竜の角から雷のような光と音が上がって、視界一面が真っ白な光に包まれた。








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気付けば、私はまたいつの間にか川の傍で横になっていた。

坂本に頼まれて、別行動を取ったところまでは覚えている。でもそれから腐肉に起こされるまでがさっぱり思い出せない。
前と一緒で横になった記憶は無いし、坂本と別れた時も眠気も体調不良もまったく感じなかったのに…

そうだとしたら頭が痛いとか、気分が悪いとか何かがあっても良い気がするのだが…
身体の不調は特になく、逆にそれが気味が悪い位だ。
いっそ病院でも行った方がいいのだろうか？　一揆の関係者の人から紹介とか貰えるかもしれないし…

腰の後ろにぽつりと赤い点が見えて、一瞬ぎょっとする。
…よくよく見なくとも咄嗟に思い浮かんだものとは違っていて、焦った、と小さく口籠りながら色鮮やかなそれを指で摘みあげた。