■森林：護りの森にて

「やぁ、庭師の」
「…やぁ」
　振り向き、挨拶を返してくれるだけの愛想だか常識だかににっこりとして見せる。
「肉だね。毛皮の処理は終わっているから」
「おや、話が早い。心臓は残っとるかいな？」
「前もそうだった。一つなら」
　目当ての獲物は2体いた、まさか心臓があったりなかったりとする獣でもなかろう。
　もう一つの処遇が気になったが、捏ねたり混ぜたりといった作業を聞いたところでよくわからないのだからそっとしておく。
　にしても。
「前、な」
　人の記憶に私事が織り交ぜられている、その言葉に面映ゆいものを感じた。
　にんまりとした私をどう思ったか、緩く首を傾げて見ている。
「…そんなに腹を空かせて？」
「うん。私は別に食べることばっかりに笑うわけではないんやけどな？」
　どいつもこいつも、と思った。


■平原：大草原にて

　なんとなく今日は視界が広い。
　森を抜けてきたから、でもあるのだろうが。
　はて、何が違ったものか、と周囲を見渡す。
　視界のよいところでは先行の役目も控えめでいるのか、庭師の背筋は真っ直ぐ伸びているように見える。
　姿勢を低くするのが獣の警戒の現われであるならば、今はそうする必要性も薄いということなのだろう。
「さっきゅん、どうかしたー？　おやつ探してる？」
「うん、四六時中二十四時間休みなしに食べ物探さにゃならんほど野生に生きてへんっちゅーか、誰や、私をただの食いしん坊みたいに言うとるんは！　サルか、サルのヤツか！！」
「うーん、確かにすべすべが用意するごはん、さっきゅんの量は多めかなぁ？」
「ふっ！　私はダイエットなんぞ気にする必要がないさかいな！」
　反射的にえっへん、と胸をはってしまう。
「あら、羨ましい。カロリーの消化っぷりは、さすがの食いしん坊さんね」
　嫌味には至らない、笑うにも満たない、事実への感想に微笑をトッピングした物言いに、白衣の先生を見やる。
「非効率やって言う？」
「美味しいものを美味しくいただけるなら、何よりじゃない」
　魔法と科学を制しているような彼女が、その知性と魔力の代償か、唯一、手出しできないのが調理だ。
　何らかの秘策として一つ用立てて持っておくのもいいかもしれない、なんて思っていることは秘密だ。
　…必殺技っちゅーかな？
　そうして、はたと思い当たる。
　なるほど、久しぶりに四人での行動だからか。
　私は人を見る、彼ら三人三様の在り方の差異に、世界が広く見えるのだ。
「ふむ」
　春、草花の匂いを帯びた風は暖かく。
　誰しもの心地を大らかに…
　してくれるはずもないので、今日も今日とて、拳を振るう。
「っちゅーか、さすがにあのイルヤナいうやつは、可哀相な気がせんでもない」
　…難儀な世界だ。

System Message : M.E.E.駆動...出力...30%...40%...50%...M.E.E.戦闘出力確保......