■山岳：星屑の山にて

「…気温が低いわ、高度が高いわで、お空が綺麗やなぁ…」
「現実逃避も大概にして、ちゃっちゃと歩いてください、置いていきますよ！」
「…なんでお前さん達ゃ、そないに張り切っとるんや…」
　よよよ、と片手を顔に当てたところで、先にと、さらに先にと歩く二人は無論のこと気にすることはない。
　つれへん奴らである。
　先行するのは犬の仕事だろうと思うのに、特に役割を張り合うこともなく、あの獣めいた男が当たり前に先を歩いている。
　気配なく、ともすれば見えているというのに、見失いそうな。
　やはりあれは、町に住まうような生き物ではないのだろう。
　勝手ではあろうが、そんな理解の一つを得ることに満足感を覚える。
「…何かつまみ食いでも？」
「んぁ？　なんでや」
「笑っているものですので」
「…なぁ、わんこの嬢ちゃん、一体、私を何やと…」
「拾い食いしてもお腹を壊さない人では？」
　そうやけど、その通りやけど！
「そないなことせェへん。おなかすかせて、早よ帰って、竜の嬢ちゃんのパンケーキでもご相伴に預かりたいもんやと思てるとも」
　言い放つと、わんこの耳が途端に垂れた。
　きゅいーんとでも聞き間違えそうな響きでお嬢様ー…とかへこたれるものだから、八つ当たりを果たしたこれもまた、私に満足感をもたらしたのだった。