青空ガーデンティーパーティは一度いくつかの小集団に別れ、各々各所に散って活動している。
個人ごとに目的があったり、欲しいものがあったり——理由は様々だが、偶々意見が一致したのだ。
新調した楽器の奏力を試す為、空気と音にまつわるエンブリオを捜索する為——
モルトの配置は、険しい山岳となった。

天を目指し、雲を払えば、其処には満天の星空がある。
この場合悪を倒せとか世界を救えとかのアレではなく、物理的な意味だ。
物理法則が平均的な地上においては、一定の標高を突破すると頭上から障害物が消失する。
そこまでなくても星が近くなるのだから、見上げたときの爽快感は地上とは趣を異にするだろう。
空気の薄さ等を気にする者も居るだろうが、異常ともいえる呼吸器の強度を誇る彼女にとっては、
大山の登頂もハイキングに等しい。
音響と楽器を扱う才能しかないモルトだが、その括りに当てはまり、其処から派生するものならば、
あらゆる能力・技能・特性が高い水準にあるわけだ。
喧嘩は弱い と本人嘯くが、もしかしたら「強い」の水準が異常すぎるだけかもしれない。
悪態をつきながらも「険しい山道」を難なく踏破し、飛竜の居住でうたた寝を決め込める人間を、
「弱い」とは呼べないだろう。

というわけで今日はおやすみなさいの話。

一揆の勢力も夜は寝る。理由は烏合の衆だから。
夜戦は高度に訓練された兵士の所業であり、つまり正規軍と野生動物で構成されているらしき
王の軍全に対し、余りにアドバンテージに欠けている選択なのだ。
数を揃えて、夫々の世界の特徴を活かし、いっせいに襲い掛かってごちゃ混ぜに出来る乱戦以外に、
この一揆には選択肢がない。
とはいえ”襲われる方”である王政は夜戦の有利を生かせないので、互いにとって苦しいばかり。
だったら寝るし、戦術的に意味が無い限り寝込みを襲う必要もない、っていうわけだ。
苦しくなれば事情も変わってくるだろうけれど、今の所は誰も彼も、人間らしいくらしをしている。
それはとても素晴らしい事だ　と、多くの世界移動を経験したモルトは知っている。
だから寝る。　

必要なのは、集中力と即応性。
　音撃を行使するのに必要な、高速かつ高度な判断力を維持する為に。
そして何より、独創性と想像力。
　楽園世界の呪いに囚われた者が生きていくのに必要な、”楽しむ力”を維持する為に。

その眠りは深く、深い眠りは夢を導く。
数多の世界を歩き、無限の光景を目撃したモルトの夢は極彩色。
取り留めの無さ、展開の速さは群を抜く。
妖精や悪魔の手合いには人の夢を覗き込める輩も居ると聞くが、正直おススメしない。
ちょっとくらい発狂してしまいそうな密度が、其処には詰まっているからだ。
　彼女の得意技である、世界すら捻じ曲げる狂乱の音色の原点は、もしかしたらこの中にあるのかもしれない——


話がそれたが。
モルトに限らず、楽園世界アイオネラの天才たちにとって、こうした生命由来の欲求は重要である。
睡眠に限らず、食事、闘争、そして生殖。 (もう一つあるが、流石に積極的に楽しむ子は稀か。)
堕落しようと思えば何処までも堕落できるアイオネラにおいては必需の刺激と言っても過言ではあるまい。
なんせどれだけ追求しても飽きない。　何の障害もない人生を慰めるのには最適だ。
他の世界の住人からすれば訳判らないほど固執することもあるので、交流の際には気に止めておくといいだろう。

　























　
つまりアイオネラ人は寝起きが悪く、喧嘩っ早く、大食いで、誰とでもすぐ寝るということだ。