(彼はもう、宿には居ない。
…だが、部屋の壁に何か彫られている。
……いや、彫っちゃだめだろ！というツッコミは歓迎だが、実に芸術的なので価値がありそうだ。許してもらおう。
………ルーン文字だろうか、読めないはずなのだが…じっと眺めていると、歌が聞こえてくる……)


全てを失い全てを捨てて　流れし枝葉は城壁見たり
狂いし王様引き摺りおろし　民らが立つ日は間近に迫る

枝葉は戦に加わらざりと　音色を奏でて笑いて過ごす
されども刃と弓矢の音に　嘗ての悲劇を思い出だせり

枝葉は出会いぬ紅の小娘　彼の者その名を闇豹なりと
名乗りて歩みを進めし日々は　失いかけたる平和な日々や


紅色靡かす娘は語る　死ぬるは終わりぞ汝は生きよ


彼の者果たして何者なりや　我らが戦を存するものや
戦士の館の扉を守り　戦の乙女は死するを祈る

焼かれし妻子は館に至り　逃げ落つ我が身に扉は閉じる
復讐果たして強きを示し　戦士の館で妻子を抱く

紅色靡かす娘は知らず　妻子と過ごせし平和な日々を
我にはいかほど後悔ありや　我にはいかほど絶望ありや

されども娘に伝えたき声　届かぬ言葉を最後に歌う
汝は力をその手に握り　汝の正義を貫く戦士

されども汝は神にはあらじ　汝は小さき小娘なるぞ
その身に溢るる正義を翳し　その腕振るうは愚かな事ぞ

いかなる力を抱くとしても　汝は小さき小娘なるぞ
その身に溢るる思いを抱え　苦しみ嘆くは愚かな事ぞ

紅色靡かす娘に祈る　汝が幸福満たさることを
我が身を思いて振るいし腕も　汝に幸い与うることを

枝葉は嘆かじ枝葉は泣かじ　汝がヘルへと行く故あらず
さすれば死すとも二度とは会えぬ　汝に祈りの言葉を残す

イドゥンの林檎の輝き満ちて　汝と闇とが生きるを祝う
遥かな未来に黄昏待つも　汝の幸い終わらぬことを


（……ような、気がした。気のせいかも知れない。）

ブラジャーとか聞こえた気がしたらしい。
金眼がロッシをじーっと見ている。