森でトレントたちを倒してから、砂地に行くまで。
その道中、やたらと機嫌が良い。
足場の悪い道を、ぺたしぺたしといつもよりゆっくりペースで歩きつつ、時々足を止めたりもして。
呼び出したダダンと一緒に、ぺたんとお尻を落としてなにやらもぞもぞしていたが、流石に先日の迷子で懲りたのか、彼の方はちらちらと見て。
その背中を見失いそうになれば、急ぎ立ち上がって追いかける。
そのくせ、彼がそれを不思議がったとしても「ないしょ」一点張り。
ただ、先日彼に作ってもらった新しい鞄は、寄り道するたびどんどん膨らんでいった。
そして辺りも暗くなり、どちらともなく夕飯の話となった頃。
パンパンになった鞄の、その口を大きく開きながら彼の隣へと並び。背伸びする。

彼女がゆっくりと近寄って来るその姿と、漂う甘い香りにホッとする。
進めていた脚を止めてその場に佇み、己の前に立つ小さな姿を見下ろす。
手が伸ばされれば、ぱちりと瞬いて背を丸めるよう身を屈めて。

頬に触れる指先に双眸が細くなる。
何処か嬉しげに浮かぶ笑みに、やれやれと小さく喉を鳴らし。

そこまで言ってからそっと言葉を切り。
しょんぼりしてしまった彼女の、その頭をぽんと優しく撫でてやる。
何やら料理途中だったらしき、慌てた様子を何となしに見やって。

焦げてしまったような香りを漂わせるケーキと、
野営するならばと準備に取り掛かろうとする彼女の姿と。
レンズ越しに真っ直ぐ見つめてから、ゆっくり手を伸ばし。

動き回ろうとするその腕を掴んで、止め。
申し訳ないような悔しいような——なんとも言えぬ表情を浮かべる。

種族柄かも知れないけれど、そう言えば彼女は、靴なんて履いてなかった。

覚悟をして抱きしめるのならびりっと。痛がゆい不思議な感覚を無視して抱きしめようと思えば抱きしめ続けることが出来る。ただし抱きしめている間CVに触れている部分はしびれて感覚がなくなっていくだろう。防御点を無視して1点のダメージだ。

とか何とか言う前に、少し不格好なクッキーは彼女の胃の中に収まる。
告げられるだろう言葉や感想を神妙な面持ちで待つのは無意識で、
なるほど彼女もきっとこんな気持ちだったのだったのかと、そんな事を。

おいしい、と。そう言われれば何処か安心した風に息を吐いた。

こういうものはどうしたって、気恥しくもあり。
けれども彼女が幸せそうに笑って食べてくれるのを見れば、
凭れかかってくる重みを受け止めて、喉を鳴らした。

もちろん進攻もだけど、なんて、冗談のように付け足して悪戯に笑う。
それから不意に、彼女と視線を合わせてぱちりと瞬き落とし。

　と、やっぱりくすくす笑って言った。
　それから、魔法を使って作る料理の具体的なことには興味深そうに耳を傾けた。

　そう言われたウルヘアは、少し困ったように首を傾げた。

　一人前になりたいとのか問われ、頷きを返す。
　続いて、もう叶ってる、と言われたら、苦笑いを浮かべた。

　

　彼女の村のことを聞けば、軽く首を傾げた。

　もしかして、あまり人間との関係は良好ではないのだろうか。
　過去に何かあったのだろうか。
　一瞬、そんな考えが脳裏を過るも、目の前の彼女が笑うのを見て、釣られて笑った。

　新王と先王のことに関しては、あくまで推測だけれど、と前置いて、

　そう言って、こんな状況でも、嫌い、だなんて感情のことを話したり、心配したりする彼女の心優しさに眉を下げて小さく笑う。
　あんまり、彼女を心配させるようなことは言いたくないな、なんて思いながら。

鞄から飛び出してきたエンブリオが、くるくると回る。
回る。
回る。
２人の周りをひと回りするたび、翠の風のように透き通ったその姿が、少しずつ伸びてくる。
まるで影のように、長く、長く。
風が吹き上がる。
髪を揺らす。
ケープが巻き上がる。
たまご色の羽毛があたりに散った。
２人に並ぶように、いつの間にか並ぶ影があった。