「よろしい」
食後の紅茶で口を湿らせ、イリスの父は向き直った。
「すべての評価において申し分がない。無論、娘からの評価もだ」
今、父の視線はアリスへと向いている。
「今日この時をもってお前をイリスの正式な従者とする。これからも彼女に忠誠を誓い、良き従者で居なさい」
「はい、旦那様。私のこの身全てをお嬢様のために使わせていただきます」
形式的な遣り取り。
だがどこか、イリスには違和感があった。
父もアリスも、どこか落ち着かないような……。
「イリス」
「……っは、はい、お父様」
二人の様子に注意を向けすぎていて、父に声をかけられて思わず声がわずかに上ずってしまった。
咎められることもなく、父は微笑を浮かべている。
「まだ主としての振る舞いには慣れないか？」
「いえ……そんなことありません、お父様」
「そうか。……お前は上の子と比べても、随分と落ち着いている。お前の姉たちは、まだこれぐらいの頃は手を焼いたものだよ」
お淑やかな姉達にそんな時代があったのかと、イリスは目を丸くした。
姉達の立ち振舞に憧れたからこそ、自分もそう目指していただけに驚きもひとしおだったのだ。
「本当ならここからが従者にとって本当の試練のようなものなのだが」
そう前置いて、父は紅茶の水面を眺めてくつくつと笑う。
「この子ならそうもなるまい。……イリス」
「はい」
「お前にとっても、今から告げることは一つの試練だ。お前の姉達もやってきたこと……よく聞きなさい」
「……？　はい」
なんだろう、とイリスは改めて姿勢を正した。
満足気に父は頷き、そして言う。

「一週間時間がある。荷物をまとめ、この屋敷を発つ準備をしなさい。これからお前は七年間、従者と二人で別の屋敷で暮らすのだ」

イリスの純粋さに触れて、さらに気恥ずかしくなったのか
やや慌てるように話して。

イリスの礼があとに続けば、すぐにその表情は笑みへと変わる。
落ち着きの無いように見えるが、実際落ち着きが無いのだから仕方ない。

イリスとフィンの解説を聞けば、すぐに真顔になって
ふむふむと頷く。

そういうと納得したように大きく頷いて。

シュネーについて問われれば、ふるふると首を横に振り

慌てて間違えそうなところを指差すも、直後に間違えようもない場所を見つけた！

その話を聞いて俄然瞳は生き生きとしてくる金狐であった。

一口サイズのスコーン、でも一個一個丁寧に焼き上げていて、さくさくフワフワと、優しい香りが口の中を包む。

そう言って、さくさくホカホカのスコーンを、少女の小さな掌に数個載せる。まるで隣に居る狐の毛並みのように、きらきらした焼き具合だ。