———借り物の小ぶりのテントの中で目が覚める。
床は固くまだ「寝心地」という単語に辿り着くほど身体は馴染んでいないけれど、違和感もないのが不思議だ。
（あぁ、…こどもの頃と似てるんだわ。）

揺蕩う意識が、明確な思考へとうごいてしまったら、
もう眠る気はしなかった。
何しろ、気配がすぐ近くにいくつもある「この場所」では。
こうして過ごすのは幾度目だろう。
仮にも塒と呼べる場所を持っていた「元の世界」より割合が多いのは確かだ。

息を潜め、土を踏みしめて外に出る。
夜着代わりも無い身で、上着を纏う代わりに上掛けを引き摺ってストールのように巻きつけた。
しんと染み入る夜気が身に染みる。身体に震えが走るのを抑えようもない。

帰りたい、と願うココロもなくて、（場所もナイ）
どう生きたい、と謳い出すココロもなくて、（衝動もナイ）
根差しているのは、ひりつくように痛む、生きるという意思だけで、（欠けている）

『自分がいる場所が正しいのかもわからない。』
『今何処にいるのかもわからない。』

（なんて、誰に言えたものでもないんだケド。）
当然の事だ。踏み台にしてきた人間が揃って暴動を起こしそうだ。
埒のあかないこの思考は建設的とはいえないの、だけれど。

嗚呼、頭痛がする。不安なんかは無い。ただ頭が痛いだけだ。
娘はこの不毛なひと時を時折自分に許していた。


夜が明ける前の、この時間だけ。
この時間を、愛していた。

流石に悪口とかは別だよ、と付け加え、苦笑を零した。
何かしら、さっきの発言で思うところがあったのだろうか。

咎めるような、問いかけるような視線に僅かに首を傾げ、

視線の真意を測りかねているのか少し沈黙した後、男は短く告げた。

自分の分も合わせて二輪の花を差し出し、期待に満ちた表情でわくわくと見上げる。

　ジャックは小切手帳のページを一枚切って、頬張って見せた。

小走りで、後に従い。

アクスをぶんぶん振り回しつつ