ここに我輩ことニャンダモン様の記録を残す。
俗に言う“ヒトもすなる日記というものを猫もしてみんとてするなり”といったところである。

《札付きの悪党》
昼飯後の昼下がり。秋晴れの空のもと、食後の運動にウサギを追う。
しかし、二羽のウサギどもに返り討ちにされ、せっかく溜めこんだ我輩の“ねくたぁ”がバラバラに散り果て、懐から零れ落ちる。
“二兎追うものは一兎も得ず”とはよく言ったものである。

ウサギどもに庭園の散歩の邪魔をされ、不貞腐れながら水辺へと引き返す。
その途中、古めかしく大きな建物を発見する。ヒトの気配は無い。
扉の前でニャーと鳴くものの、誰も開けやしない。どうやら留守のようだ。
窓から中の様子を覗く。誰もいない、やはり留守のようだ。扉の鍵は......

扉の鍵は開いている。
我輩ほどのお利口さんになれば、扉を開けるなんてお茶の子さいさいなのだ。
扉が開けば、やることは一つ。遠慮なしに建物内に入る。

その内部は生活臭に溢れる空間であった。むさ苦しい香りが漂う小奇麗な空間だ。
ベッドがあり、机があり、その上には本や食器が置き去りにされている。
壁には無数の張り紙が、中でも“整理整頓”と書かれた張り紙が際立っている。

我輩の嗅覚がオヤツの匂いを感じ取る。
どうやらあちこちに隠してあるようだ。我輩の大好きな“宝探し”というわけだ。
開始から小一時間。心行くまで散らかし尽くし、“宝探し”を終える。
その成果は、オヤツとヘソクリが少々、それと“大人の”本が数冊。これは机の上に置いておいてやる。

リラックスタイムへと移行する。リラックスするにはちょうどいい空間だ。
オヤツを貪りながら、壁の張り紙を眺める。堅苦しい文章の中、無数の顔が目に留まる。
似顔絵とその下に金額が書かれた張り紙だ。一揆衆どもの顔もあるようだった。
この素敵な似顔絵は、有名になると描かれるのだろうか。我輩も描かれたく思う。

賞金首。耳触りのよい響きに、我輩の邪な心が刺激される。
紳士たるもの清く正しく美しく。欲しいものは奪い取るのが、世に蔓延るの紳士淑女どもの常識である。
何よりその似顔絵の仲間に加わりたいのだ。我輩の顔が人目につく、ちょっと嬉しい。
そんなこんなで我輩も賞金首を志す。我輩もPKとなり、略奪行為をするのだ。

親切、丁寧、ヒトを傷つけることはなく、言いつけを守る良い子ちゃん。
そんなものは紳士ではない。哀れなカワイコちゃんどもの幻想にすぎないのである。
紳士とは清く正しく美しく、己の義に忠実な者のことをいうのだ。
何より我輩はヒトの困ることをしたいのだ。人を困らせて喜ぶのが、我輩の性癖なのだ。
我輩の名前を聞くだけで恐れ慄き、我輩の顔を見るだけで縮みあがるがいいのだ！

.....もうちょっと準備してから実行に移すことに決めた。
計画を立て、作戦を練り、悪巧みすることに洒落こむ。気付かれずにひっそりと。
怖いからじゃないもん。