紅玉の頃/根の日

茜という植物は、目に見える部分はつまらない植物だ。
赤い根でアカネ。


咲かせる花は美しいとも可愛らしいとも言い難い地味な容姿で、茎も自力で直立することはできず、他物に頼らなければ姿勢を保てない。

なんとも頼りない、とつる性植物に言うのは野暮な話だが。

しかし、根は立派なもので薬や染料となるらしい。
目に見えない、隠れた場所に素晴らしい能力を持つ植物。

花言葉は「媚び」。
他にも「誹謗」だとか「不信」だとか、あまり良い意味の言葉は無かったように思う。

この槍の名もまた、アカネと言う。

知らぬ間に模様や形を変える武器。
その性質を活かせたことはないが、槍として扱ってる間は重宝している。

俺が無駄に茜草に詳しくなったのは、この武器の名前の由来を調べたからだ。
もしかすると柄の色とか、製作者の当時の恋人の名前とか、大した理由は無いのかもしれない。

調べていて、茜草に特別良い印象を抱くこともなく知識を増やした。


武器である以上、行使する存在が無ければ性能を発揮しない。
そういった意味ではつる草と重ね合わせるのもわかる気がする。

この武器は形が変わっても不思議と手に馴染んで、経験上最も扱いやすい。

少し前であれば、この武器は俺との相性が最高で、俺が一番上手に使ってやれるのだと調子に乗った事を考えもしたが、今では物が良いのだろうという結論に落ち着いている。


もしも、アカネの内に秘めた力があったとして。
普通の武器ですら並み以上には扱えない俺がそれを満足に引き出せることは無いのだろう。

アカネが俺に蔓を伸ばしているのか、俺がアカネに縋っているのか。

俺が茜草と同じなら、俺の見えない価値はどこにあるだろう。
気づくのは、誰だろう。

しなやかで力強い根。
見えなくても、目立たなくてもあれば良い。

ぽつりと。呟くようにそう言い。

慌てて首を横に振ったのだった。

フレリアの姿を追って、アマリアが体の向きをくるりと変える。

　明らかに不服そうな鳴き声である。ちゃん付けが嫌らしい。

　確認するようにそう問うた。ひどい。
　隣でイヌワシは、『ほら言ったじゃろ？』って感じの顔してた。

　フォローなのかこれ。言葉に迷いつつ、とりあえずそんなことを言う。