「全ての生きる者々へ感謝を。いただきます」

「いただきまーす！」

　一揆衆合流、6日目。軽トラックで各地を転戦しながら、いつの間にかクロが契約したエンブリオも5体を数えるに至った。源三は食事から栄養を摂取するタイプではないため、初日はクロ一人の食卓であったが、今となってはその静寂が懐かしく思えるほどである。

「——哨戒に行ってくる。皆、しっかり身体を休めておけ」

　当初からクロに付き従う源三は、あまり他のエンブリオに干渉をしない。クロに対しても強く何かを言うことは滅多にないため、もともとの性質——他と一定の距離を置きたがる——が大きいのだろうが、今はまだ様子見の段階であるということなのかもしれない。

「き、気を付けて下さいね。あ、あふ」

「慌てんな。熱けりゃ冷まして食え」

　ここに来てから初めて契約したエンブリオ、マーメイドの五洋。クロ達が見つけた時は既に彼女は群れからはぐれてしまっていたので、ひとまず契約によって保護することにした。戦闘能力は高くないが、炊事や洗濯などは得意らしく割と所帯じみている。

「……ま゛」

　土人形のエンブリオ、権六。攻城の途中で遭遇し契約したはいいが、未だに誰も意思の疎通が取れていない。契約に応じたということは、少なくともクロに付いて行く意思は有るということだと思われるが、何せ意味のある言葉は一切喋らないし、表情の変化も殆ど読み取れない。謎の多いエンブリオである。

「おう、やっぱクロんとこが作った米はサイコーだナ！」

　狼の姿をしたエンブリオ、阿近。彼はもともと、クロの村で育ったエンブリオである。クロの父が一揆へ参加する際に同行していたが、途中で戦闘力の不足により契約を解除され、自らの不甲斐無さに苦悩するあまり自我を失い、クロに刃を向けてしまったらしい。

　そもそも姿形がクロの知っているそれと全く違っていた（村に居た頃はもっともちもち、ふわふわしていた）ため、最初はクロも認識できていなかったが、阿近と戦い、勝ったことで自我を取り戻させることに成功し、以降は彼もクロと契約を交わしたエンブリオとして戦線に立っている。

「うんうん！　どんなおかずにも合うんだよねー、これ。どういう作り方してんの？」

「……種籾とそれなりの環境さえありゃ、特別なもんは必要ねえ。あどは手間と時間が味を作ってくれる——セルフォリーフ産のもんより味は落ちるがの」

　先日契約したエンブリオ、ノームのスゥ。彼女も謎の多いエンブリオである。出会いからして、いつの間にか夕食の卓に混じっていたという奇妙なものであり、さらにその席で『契約させてやるから飯食わせてくれ』と半ば強引にスゥの方から契約を迫った格好だ。出自は不明ながら、何故か格闘技に精通していたり、口調が安定していなかったり（曰く『まだキャラ付け途中だから』）と、いまいちとらえどころが無い。

「——うむ、うまい」

　味噌汁を一口すすり、クロは満足げに呟いた。彼の村の掟により、最初は複数のエンブリオとの契約を渋っていたクロだったが、今はある程度割り切っているようだ（尤も、完全に抵抗が無くなったわけでも無いようだが）。

　——ゆらめく焚火を見ながら、彼は昼間のシエラとの手合せについて考えを巡らせていた。

「こん先、シエラはどごまで行けると思う」

　視線は変えぬまま、クロは自らのエンブリオ達に問うた。

「今日練習試合した子？　何かの才覚は有りそうだよー、それが花開くかどうかは分からないけど」

「今回は負けたが、結構きわどい勝負だったよナ。実力的にはクロとそう変わんねえんじゃねえ？」

「ふひゅ……なんていうか、怖い人でしたねえ。練習試合なのに、本気で殺されるんじゃないかと思いましたー」

「ま゛」

　思い思いの言葉を喋る中で、そのうち源三も哨戒から帰ってきた。

「——不思議な『気』を持つ少女だったな。人を惹きつけるかと思いきや突き放し、恐れられたかと思えばどこかでドジを踏む。こういうのを芸人というのだったか？」

「ちょいと違えがな。ある種のカリスマっち言えばええんか……」

　彼女は明日から、自らの欲望のために冒険者を襲い始める。クロはそれを止めなかった。今日の練習試合で彼が勝利していれば、その可能性もあったのだろうが。

「オイもそろそろ、動かねばならんかのう」