力では敵わない。そして、知恵でも敵わない。
そんな人だった。
彼はたくさんのことを教えてくれた。
そう、まるで僕自身の父親のように。
目の見えない彼だったが、新しいものの見方を授けてくれた。
後は、僕が、そして彼女が、見つけるだけだ。
僕は見つけた。彼女の真実に近い何かを。
しかし、それが本物なのかはまったく分からないし、
何より本物を探し当てたとしても、その主が本物と認めない限りは、
何をしても無駄なような気がする。
探しものは自分で探せと、僕は弱っている彼女を冷たく突き放した。
嘘だ、本当は一緒に探してあげたかった。
でも、ずっと一緒に居られるのは無理だった。
だから何とか自分から気がついて、その手で探してもらうしかなかった。
最も美しいものを。

あの間抜けた狼王は自分の妻を弱いとみなし、ただただ守るだけだった。
それで自分の留守の最中、妻が一人になったところを狙われたのだ。
もう一人の狼戦士は、長い時間をかけて永遠の愛を誓った相手を、
命の恩人ができたとしてあっさり裏切り、狼でいることをやめた。
同じ狼として、そんな物語は二度と繰り返したくない。

玉座に座っていたメルンテーゼの王は偽者、ただの影だった。
その事がまた不安をかき立てたが、玉座で遊ぶ子たちの姿を見ていると、
本当に心が休まる。彼らと羊のように暮らすのは悪くはない。
この群れが僕の居場所、ずっとそうだったらいい。
そうすれば、苦しまなくて済む。
でも、考えずにはいられなかった。
探しもののことを。
今のままじゃ、何もかもに申し訳が立たない。