黙々と進む。
　……この礼拝堂の妙な大きさも、狂わされた感覚によるものかと思うと……
　無駄になる分の歩みは……外から見るとどれだけ滑稽なんだか……

　……どこぞでは、イカとじゃれあってた魔神がどうのこうの……なんて話も聞こえるが。

　……この一揆……
　無事に済むのかねェ……


　——二度目の解約。
　鉛[なまり]の時と、同じだ。
　碌に、手を掛けてやれなかった。
　薬莢だけは……それなりに作ってやったつもりだが。

　銅[どう]——と呼んでいた。種としてはリリスになる——は、俺が契約した中で、紅一点だった。
　……まぁ、見た目に性差のねぇ種族の奴も居るからな……実は他にも雌が居るのかも知れねぇが……少なくとも、一見でそうだと、女だと判るのは、銅だけだ。
　俗に言う所の、『お色気ねーちゃん』って奴だが……別段、世の野郎共が羨むような事は、何も無かった。
　……ま、興味ねぇからな。無駄だってのが、判ってたんだろう……
　或いは……見た目の印象程、享楽的じゃなかったのか。

　……そこら辺のコトを、俺が知る由もねぇが。
　解約の話を切り出した折も、別段、驚くでもなく。
　いつも通りに、のらりくらりとした所作で、そんな気はしていた……とだけ。
　ただ、俺に向けた溜息混じりの眼差しは——普段と同じ、色眼にも似た、その中に……恨めしさと、嫉妬の入り混じった、そんな気配を孕んでいた。

　あれは……
　代わりの……次の契約相手が……
　空いた自分の席に座るエンブリオが……
　女性格のカミサマだって、言ったからか？

　……最初は、妙に。
　あっさりとした素振りだったのにな。
　次の相手が誰なのか。それくらいは、と……
　……しおらしかったのが、その睨み一つで消し飛ぶぜ。
　……女ってのは、怖ぇな。
　いや……蛇だから、なのかねェ。
　お前の眼力で凄まれたんじゃぁ……並の男は肝が冷えらぁ。

　……別に、俺自身に、執着がある訳じゃねぇんだろ。
　他の女が、そこに入るってのが……気に入らねぇんだろう。
　……最初の女、だものな。

　……ま。
　好きにしろよ。

　……鉛も、そうだった。

　お前にその気があるんなら……
　これから来る、宇宙の権化と……話をつけてみりゃ、いいんじゃねぇか。

　……案外、勝てるかも知れねぇぞ。
　お前も、お前の神話じゃあ、最初の女——
　——原初の母、だものな。