両手に赤い花のつぼみをたくさん抱えてコルリは意気揚々と街に向かって歩いていく。

「いやー、死ぬかと思いましたけどこれで解決ですね！なんかこう・・・黒いのがうねうねってなってましたけど、まあ解決ってことでいいですよね。うん。オッケーおっけー。」

「うーん……お前がいいなら私は別にかまわないが……」

コルリのエンブリオである朱星は傍らで首を傾げた。


「いいんですよー、こんなにお花返してもらったし。全部つぼみだけど。そのうち咲きますようん。」

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街に続く道すがら。小さな森に分け入り、生まれた森のにおいを思い出して歩く。
ふと、コルリの耳がぴくりと音をとらえ、そちらに目を向けると、赤い血が転々と続いていて、辿ると木の洞の中で隠れるように１匹のぎつねが蹲っていた。

「…ほかの獣にでもやられたか。まだ息はあるが、長くはないだろう。」

「そうですか。」

コルリは狐に近づき、苦しそうに上下する小さな体を見下ろす。

「朱星はコルリのエンブリオですよね。」
「それはそうだが、にどうした。」
「ですよね。そしてその前は、白露の。」

「よし、決めました。」
ふいに顔を上げると朱星を振り返り
「朱星は、この子に譲りましょう。で、助けてあげてください。
　コルリは、朱星と、それと白露がいなかったらここにはいないし
　だから、えーっと、要するにですね。コルリは、白露になりたいです。」

手を宙で動かしながら、必死に説明しようとする。朱星はあっけにとられながら、それを聴いていた。
その様子が可笑しくて、自然と笑みがこぼれる

「お前の力は大部分、私に依存する部分が大きいのだが、それでもいいのか？」
「いいです！　あ、でもちょっとは残ってたほうが…うんちょっとでいいですけど、あ、でももうちょっと、半分ぐらい？」

今になって惜しむ心が出てきたのか、と朱星は笑う。

「でもでも、コルリはこの子を助けたいんですよ！
この子はコルリで、コルリは白露になりたいんです。
今まで見てきたこととか、知ったこととか、みんなこととか
それからそれから、コルリが白露からもらったみたいに
コルリもこの子にあげたいんです。だめ？」

しゅんとした様子のコルリの鼻頭にピンと火花が飛び、驚いて鼻を両手で覆う。
目線の高さに浮かぶ朱星はにこりと笑うと、死にかけのきつねの元に降りていく。

「全く、お前と白露は似ても似つかないが変なところだけ似てしまったな。いいだろう。だがうまくいくかはこいつ次第だからな。私は飽くまで生きるための手助けしかできない。」

「きっと大丈夫ですよ！朱星とこの子なら…あったばっかりだけど！」

ぱっと顔を上げ喜ぶと、コルリの胸の奥から気配が抜け出るのを感じる。

「思ったよりは長かったか。それではな。それと最後に一つ。楽しかったよ」
朱星の姿は小さな火に姿を変えて、きつねの中に消えていった。
しばらくすると、苦しそうだった呼吸が少しずつ整っていくのが分かった。
コルリはほかの獣に見つからないように木の洞を隠すと森の奥へと消えていった。

ずっとともにあったぬくもりが体から離れたのに、不思議と寂しくはなかった。
少しだけ残った温かさを感じるからだろうか。
不思議な高揚感が、コルリを包んでいた。

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　不思議なことに生きている。
襲われ腹を裂かれかけ、もうだめだと思っていたけれど。
　まだ意識ははっきりしていないし、うまく動かない。今いるはずの木の洞はなぜか入口が落ち葉でおおわれ見えなくなっている。それに異様に胸の奥が熱い。

　不思議に思っていると、入り口に積まれた落ち葉が払われ、そこから野鼠の死骸が投げ込まれた。
　逆光になってうまく見えないが、その影はどうやら私と同じ狐のようだ。ただし尻尾の数が多い。何本かは定かではない。

「動けるようになったらそれを食べるといいですよ。」

その狐は人間の言葉でそういうと、私の意識は再び微睡においていった。

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　次にこの子が目覚めたとき、なんといえばいいだろうか。
　あの時、私は白露に何と言われたっけ。
　あんまり覚えていないけれど、あまり取り繕っても仕方ないかな。
　いやでも、最初はやっぱり十二分に偉そうに。



「目が覚めましたか。君が死にかけていたので助けてあげたのです。感謝するといいですよ！
　誰かって顔してますね、コルリはコルリですよ。９本尻尾のコルリです！」




「君の名前は？

　え？名前はない？


　うーん、じゃあ……君の名前は　　　」