ぐるぐる。

ぐるぐるぐるぐる。

包帯を巻き直す。何年も続けてきたボクの日課。
もう手慣れたもので、全身に巻き直しても5分程度で終わってしまう。
元々は勝手に治ってしまう傷を隠すために始めたこの作業も、今では生活の一部になってしまった。

ぐる、ぐる。

昨日できた傷はもう跡形もなくなっていた。
相手に付けられた傷も、自分の鎌で出来た傷も、そんなものはなかったかのように。

「のう、ピクス」

突然しまのに話しかけられる。昔のボクなら焦っていたところだけど、仲間を得て強くなったボクには、この程度の会話造作も無いことだった。

「……」
「昨日の傷はもう大丈夫かぇ？」
「あ、うん。平気」
「それならよいのじゃが……」

そう言って首を傾げるしまの。
どうやら彼女はボクの身体のおかしさに気がつき始めてるみたいだった。
うーん、これから旅をしていく上でこの体質のことを隠していけるのだろうか。
それに、しまのはボクの友だちになってくれた。友だちに隠し事をするのもちょっと嫌な感じだ。
でも、もしここで教えてしまったことで気持ち悪がられたりしたらどうしよう……
思考がぐるぐるとまわりまわって、結局答えは出ない。

「ぬし、ちょっと腕を見せるでありんす」
「あ、ちょっと」

そう言ってしゅるしゅると巻いたばかりの包帯がほどけていく。
ボクの手を見てしまのが目を見開く。
そこには傷ひとつ無い。ボクはそういう体質だから。

「これは、どういうことでありんす？」
「……これは」

見られてしまったらもう言い逃れはできない。
ボクはしまのに話しはじめた。傷が出来てもすぐに治り始めてしまうこと。一晩経てば傷なんてなかったかのように消えてしまうこと。
それでも、切り落とされた指や腕がまた生えてくることは言わなかった。なんだか、それを言ってしまうとボクが人間で無くなってしまうような気がしたから。

「それはまた、不思議な身体でありんすなぁ」
「……気持ち悪くない？」
「たしかに不思議ではありんすが、一揆に集まった者達は皆一様に不可解でありんす。特に珍しいものでもありんせん」

そういってからからと笑っていた。なんだか胸のつっかかりがとれたようだった。
誰かに認められる、誰かに自分の影を見てもらうというのは、思っていたよりもこそばゆかった。

「しまのには、何か秘密はないの」
「わっちかぇ？わっちの秘密でありんすか……」

うーんと唸るしまのを見つめる。
今思うと、しまののことは知らないことだらけだ。
せっかく友だちになれたんだし、ちょっとはしまののことも知りたい。

「お、そうじゃ。わっちは石と喋ることができんす！」
「……え？」

ニコニコとしながらそんなことを言うしまの。

「でも、うら若き乙女が石と喋っているなんて恥ずかしいことじゃからの。これはわっちとぬしの秘密にしておくでありんす」
「あ、ちょっとまって」

そう言って立ち上がると、酒を傾けながらふらふらと歩いていくしまの。
どうやらこれ以上喋るつもりは無いようだった。

「うーん、ごまかされちゃったのかなぁ」

結局、しまののことはまだまだわからないことだらけだった。