「おっと？」

首を掻くように薙いだ一閃は、やすやすとかわされてしまった。

「血気盛んだなあ。これじゃあどっちが賞金首かわかんねーよ」

体中が継ぎ接ぎだらけの男が喋る。漂う異様な雰囲気からは想像できないほど浅くあっけらかんとしたような声。

「そんなにあせんなって。お楽しみはこれからだ」

取り出したのはコインのようなもの。それは爪で弾くと、くるくると回りながら運命を示す。
コインが示すのは裏。するとどうだろう。世界は金色に光り輝き初める。
彼らは狂ったように叫び始め、姿を変える。

「…アハッアハハハッ！スッゲエ！フハハハ！これがマァムブの力だアーーーーーーー！！
アーーーーーーーーーーーハハハハハハ！！！アハハハハハーーーーハーーーーーーーーーー！！」

すでに精神はこの異質な世界に飲み込まれ、崩壊寸前だった。
それでも、身体は彼らを殺せと叫び続けていた。

「なんでもいい。殺してやる」

黄金を振り払うように走り抜ける。絡みつく狂気をすり抜けながら、もう一度鎌を振り下ろした。







どれほど戦っていたのだろうか。
体中は全身血に濡れ、生えては切り落とされた手足がそこら中に転がっている。
もはや感覚はなくなっていたが、それでも襲い来る殺意だけで立ち上がっていた。

「お前よお、マジでどんな身体してんだ？腕やら足やら、どんどん生えてくる奴なんてみたことねーぜ！」

ぱんっ、と何かが放たれる。すでにそれを捉える力など無く、立ち上がるために生やした馬の脚は為す術もなくはじけ飛んだ。
持ち前の回復も、もう殆ど機能してないようだ。痛覚が生きていないのがせめてもの救いか。
それでもまだ立ち上がる。傷がふさがらないのなら新しいのを生やせばいい。

ずる、ずる、ずる。

次の脚を生やす。まだたちあがれそうだ。

「…気持ちわりィ」

何かが身体を貫いた。それは綺麗に心臓を射抜いており、ボクは今度こそ倒れた。
視界がかすみ、意識が遠のいていく。指の一本すら動かせない。それどころか、今のボクに指はあるのかすらわからない。
向こうから笑い声が聞こえる。負け犬の姿を嘲笑っているのか、それとも勝利の美酒に酔っているのかは聞き取れない。
金色に包まれていた世界も次第に元の色を取り戻し初め、彼らの姿も元の人間に戻っているようだ。
彼らは倒れた仲間に近づくと、そばにしゃがみこんだ。

「お前ら、ボクの仲間に触るな……！」

力を振り絞って出した言葉も、まるで虫の鳴き声のように小さく情けなかった。
だが、見てる限りでは危害をくわえてるようではなかった。
ごそごそと身体をあさっている。どうやら金を奪っていったらしい。

「殺してやる」

口から出るのはその言葉だけだった。
殺意は今でも消えない。それどころか、戦う前の何倍にも膨れ上がっている。
口に出さずにはいられない。少しでもこの狂気を口から吐き出さないと気が狂ってしまいそうだ。

「絶対に殺してやる……っ！」

最後に振り絞った言葉は、ようやく彼らの元まで届いたようだった。
全身つぎはぎの男は振り向くとにっこりと笑い、こう言った。

「おもしれェ！次にあったら今度こそ殺してやるぜそれまで楽しみにしてな！！アハハハハハハハハハハハア！！」

離れていく影を見つめながら、ゆっくりと目を閉じた。
身体はボロボロだったが、自分の意志を相手に伝えることが出来た。
そんなことに喜びを覚えてる自分に気が付き、自分が自分に戻っていることを実感した。
そのまま意識は闇に吸い込まれ、ぷつりと途切れた。


「主よ、後のことは全て我輩に任せるといい」