前回分(30日目)の日記
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むかし、すべてのひとびとが同じ言葉を話していたころ、どんな病気でもたちどころに治すと評判の薬師とその娘がおりました。
ある日のこと、薬師のもとに王様のおつかいがやってきて、王妃様の病を治すお薬を求めました。
明日の朝めんどりが鳴くまでに薬を用意しろと言いました。
けれどもそれにはとびっきり珍しい三つの材料が必要で、すべて集めるには少なくとも一週間はかかります。
薬師が必死に懇願するとおつかいはせせら笑い、

と言って、兵士は家を出ていきました。


娘は薬の材料を探しに森の泉へ行きました。

娘がしくしく泣いていると、泉の中から森の神が現れて、

そこで娘は神様に今までのことをすべて話しました。

そういいながら神様はニヤリと笑いました。

と不安に思いつつも、神様の言うことに承知しました。



娘の話に対し、父親は半信半疑でしたが、すがる先はそれしかないのも事実でした。
次の日、娘の言うまま、娘に紅い花と食事を渡し、部屋に閉じ込めました。

しばらくすると、トントンと、窓を叩く音がします。
娘が窓を開けると、森の神様が立っていました。

娘が花を渡すと神様は姿を消しましたが、夜にはちゃんと材料のひとつであるアラライラオの尾を持ってきました。

娘は三つの名前を言いましたがどれも違いました。
ではまた明日。神様は嬉しそうに触覚のような角をくるくる回すと出ていきました。



その晩、娘が食事をとっていると、ちぃちぃと小さな鳴き声が聞こえました。
あらあら、床下の小さな抜け穴を通って野ネズミが一匹入り込んだようです。
野ネズミは娘に気づくとびっくり飛び上がり、箪笥の隅に隠れます。

顔を半分覗かせて、野ネズミは必死に懇願します。
ネズミにあるまじき丁重さと物腰の低さに娘は思わず吹き出して、皿の中身の半分を野ネズミへと差し出しました。

野ネズミはおそるおそる皿に近くと、くんくん匂いをかぎます。

娘は嫌な顔ひとつせず、微笑み、野ネズミのしぐさをじっと見ていました。
なんて良い娘だろう、と野ネズミは思いました。



次の日も娘は神様の名前を当てることはできず、昨日と同じように時間が流れました。
つまり、いよいよ明日が最後の日になってしまったのでした。

森の神様は嬉しそうに角をくるくる回すと帰っていきました。
娘がふるえていると、部屋に野ネズミがやってきました。

ところが野ネズミは森の神様と聞いただけで、顔は青ざめぶるり震えあがり、食べるものもそのままにぶんぶんと首を振りました。

ぴゅんっと一目散、抜け穴を通って白状物の野ネズミは去ってしまいました。
娘は野ネズミの食べこぼしが転がる床にへたりこみ、うな垂れます。
信じる者を間違えたばかりに唯一の救いの道は途切れてしまったのでした。


次の日の夜、森の神様は娘のもとへ現れると、ぞっとするような笑い顔で言いました。

娘は口を開き、精一杯の答えを言います。



そうして娘は森の神様のお嫁さんとなりました。


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森の神様は人間との間に子どもをつくりました。
子どもたちは森の中に村をつくり幸せに暮らしました。

けれども人と違って神様は長生きで、そしてとてもさみしがやりやでしたから新しいお嫁さんを求めました。
村人たちにとって森の神様は神様でありお父さんです。
ですから快く村の中で一番愛くるしく、朗らかで、健康な娘を差し出しました。
神様は大変喜び、お礼に村人たちにその年の豊作を約束しました。

それからというもの、森の中の村ではごく稀に神様のお嫁さんとなるおしるしをもった子が生まれるようになったのでした。

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ある年、相を持つ双子の男女が産まれました。
このときお嫁さんとして選ばれたのは妹の方でした。

お嫁さんとして生まれる子の多くは娘ですが、時には男子、あるいは複数の子らに現れることもありました。
相を持つ子が複数のときにはとびきり良い子を選んで捧げます。
全員お渡ししてしまったら本末転倒、村人たちの暮らしが大変になってしまいますからね。
神様が求めるものは孤独を紛らわすもの、もしかしたら食欲なんてもので紛らわせた時分もあったかもしれませんね。