何故か知らないけどドヤ顔のアナが、仰け反る程に胸を張る。
アナが持ってきた支援物資その２の浴衣。
アナが言うには『夏の夜を満喫する正装』らしいけど……そんなドヤ顔されても、うん…点動きづらいし……。

からからと笑うアナに溜息を零しながら、視線を移す。

夜空に輝く、大輪の花。
花火が打ち上がり、私とアナを照らす様をぼんやりと眺める。

アナが言う所の『サマバケビーチ』とやらから少し離れた高台は、花火を見るのに絶好のポジションでありながら人気もなく、正に穴場といった所。

言われてみれば、一揆が慌ただしい物で季節のことなど忘れていた。
朝と晩には畑を耕し、季節も気候も身近な物と感じている癖に……平時は、考えることが多すぎるからかな。

そう苦笑するアナには、何処か覇気がなく……。
より具体的に言えば、なんていうか。

……私がアナを警戒してるのは置いとくとして、私の方も、アナにも変な警戒されちゃってるな。
まあ、半分以上自業自得だし、気にしないけど。

アナは眠そうに笑んでみせた後、ひらひらと手を振って背後を振り向く。

独り言だろう。
消える直前、アナの呟きが耳に届いて……また少し、彼女への不信感が強まった。



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アナと別れて数分。
打ち上げられる花火をぼんやりと眺めていると……物音と人影に、意識が向く。

といっても、実体の無いアナが物を忘れるとは思えない。
水着は返したし、今の服は明日返すって話だったはずだけど……。
やっぱり花火、気になったのかな。

私を見て、私が、アナって呼んだのを聞いた瞬間、アナが大声で笑い出す。
様子が、おかしい……。

アナはそう、わけのわからない事を呟きながら、力尽きたようそのまま倒れた。

思わず駆け寄って、つい、抱き抱えて……『それができること』に、驚く。

アナに、触れる……？
これって、アナの……実体……？

今にも閉じそうな目を無理矢理に開き、私を見る。
あからさまな、作り笑い。
言外に警戒するなと懇願されてるような、そんな笑み。

単語単語は理解できても、意味を推し量りきれないアナの言葉。

……アナじゃ、ない。
少なくとも、私の知っているアナではない。

時間軸の踏破と、世界移動……アナは確かにそう言った。
アナの言葉を、無理矢理に解釈すれば……今、目の前で瀕死のアナは……。

……未来の、アナ？
それも、口振りから察するに……アナには、私と会わない未来が、世界があった。
……そういう風に考えると、ううん。

そういう風に考えないと、納得できない。

……皮肉な話だ。
もう、一週間近く一緒に過ごしているはずなのに……。

この、初めて出会ったアナの方が、信用できる。

それくらいなら、構わない。
人に変わっていると、変だと思われることになら……抵抗なんて、最初から無い。
それに……。

それも、ずっと気になっていた。

私自身、どちらかといえば変わり者な自覚がある。
それなのにアナは、一度もそれを指摘しなかった。

私に一揆をさせる為に、気を使ってるのが丸わかり。

それと、隠し事さえ無ければ、悪い子じゃない。
気を許せる子だとは、会った直後から思っていた。

現に、それらの無いアナを見て、確信している私がいる。

アナは力無く顔を背け、眼下に広がるそれを見る。

ビーチに集った人々。無数に打ち上がる大輪の花。

夏休みの、最高潮。
打ち上がる花火と、それを楽しそうに見上げる人々、一揆を支援する皆の姿。

あそこに要る殆どが、別の世界の人間だなんて……今のアナには、どうでもいい話だろう。

ふと、手にかかる重みが軽くなる。

朧気になったアナの輪郭。
瑠璃色に透け光る、アナの身体。

オーロラオーラを持ち一歩下がると、

きらきらと輝く刃の剣がエステルの手に握られている。
……確かに、着けるというよりは使う、だろう。
そして人のいない方向に一振りすると、水の波動が剣の軌跡を追う。