…私たちは今、砂地に足を踏み入れている。

ひょんな事から、他の一揆参加者と行動を共にする事になった。
それぞれ、まったく別の経緯でここまで旅をしてきている人たちだ。
ここまで、何だかんだ１人で判断して進んできた私にとって、まともに他の一揆参加者と話をするのははじめての事だった。

興味深かったのは、同行する事になった３人のうち２人が、別の世界からここ、メルンテーゼへ来ている事。
そして、この世界へ来る際に、何かしらを失っている事。

それは本来の能力であったり、肉体であったり、記憶、であったり…。

話を聴いていると、他世界からの転移の際には、そういった事がままあるようで、
一時的な欠落で、時間をかけて元に戻る事も少なくないようだが、いつ戻るのかもわからないし、絶対戻る、と言える判断材料は無い。という話だった。


…いろいろと話を聞く限り、やはり私も「他世界から来た」と考える事が自然に思えた。

ここの所見る断片的な夢……は、やっぱり「私の中にある記憶」なのではないのだろうか。だとすると……


考えをめぐらせていると、頭がズキリと痛む。
身体が何かを、拒絶しているような。…とも捉えられる。
…とにかく今は、この流れに身を任せて前に進むしかないのだ。と、あらためてそう思った。

相手の視線の先を追うようにつられてみると、
そちらには伏した格好の白狼が邪魔をしないように、
まるで置物のように微動だにしていない。
…否、大きな両耳だけは警戒するかのように、時折動いて

伏せた状態のまま耳を欹てていた白狼だったが、警戒は不要と
感じたのだろう…ぴょこぴょこ動いていた耳の動きを止めて。
体勢は変わらずのままであったが、大きな尻尾をぱたぱたと
振り動かしてる辺り、少しは気を許しているのかも知れない