「ねぇ——」

本を読む体勢で、目線も向けずに言う。

「貴方はどうして“そう”なのかしら。」

ソファに——お世辞にも座ってるとはいえないが——腰を下ろしたまま首を向ける。
声の主は相変わらずこちらを向いておらず、凛として本を読んでいる。

「真面目になりなさいとは言わないけど、普通にできないものなの？」

一応居住まいを正して、気のない顔を向けてみる。

「私もいい加減、口を出したくなっただけ」

それ以上でもそれ以下でもないと言いたげに本を閉じる。
そのまま何も言わずに、部屋の扉に手をかける。

「……まぁ私には関係ないけど」

そう呟いて出て行った。

「……そう言われてもね」

“そういうもの”では納得しないだろう。
だから特に返答できなかった。


＊


ぱちり、と目を開ける。
今日もよく寝たものだと背もたれに寄りかかった首を上げる。

気がつけば、目の前にぼーっとした様子の龍貴がいた。

——正直、辛気臭い感じだ。目に見えて落ち込んでいるのがわかる。

「あの、大楠様……」

「俺はお前を助けない。」

彼の言葉を遮ってぴしゃりと言い放つ。
その瞬間びくっという擬音が聞こえそうなほどに体を震わせた。

「俺はお前を助けねぇよ。護っちゃいるが、助けるわけじゃねぇ。」

「え…？」

「手前の問題は手前で解決するんだな。それは領分じゃねぇぞ。」

わけがわからないという風に顔に書いてある。
落ち着けば飲み込めなくもないだろうが、今の状態では無理かと諦める。

「俺は灯台じゃねぇからな。いちいち手前の先を照らすなんてことはしない。」

「はい。」

「外からくるもんにゃ適当に構えてやるが、内から出るもんは手前の問題だ。」

「……はい。」

「お前の面見てりゃわかる。辛気くせぇこと考えてるだろ。」

ぐったりと背もたれによりかかりながら、姫をあやすように諭した（つもりだ）。
目の前の少年は、その言葉に答えられず、きつく拳を握って押し黙る。

「聞いたら答えてくれる奴もいるがな、言いなりになるのは違ぇぞ」

それはくやしさからか、見透かされたことへの恥か——面を上げられずに。

「人は考えて、悩んで、まぁどうにかするってのを」

「あ、あの！」

後ろに倒れるかというぐらい反っていた椅子をガタンッと戻して龍貴を見る。
思い立って顔を上げたかと思えば目を逸らされた。

「……あの、大楠様。その……　ですね。」

顔が真っ赤だった。
恥ずかしいのだろうか。まぁ確かに思い返せば恥ずかしいだろうが。
悩む自分の姿というのは、後になって思えば恥ずかしいことも多かろう。

「あの、すみません……　ふ、服を正していただけませんか。」

耳まで真っ赤だった。つーか、そっちか。

昔から着慣れていた服を用意したから、それ着てだらだらしてたんだったか。
どおりでここに来る前のことを夢に見たわけだな、と納得する。

しかしなんだ。男の子だもんな、とか思わないわけでもない。
別に女みたいだからセクシャリティーも女だとは思ったわけではないんだが。
そういや巳南に気をつけろとか言われてた気もするが…

「見たって別に怒りゃし」

「そういう問題ではござらん…」

ばしっ、と俺の笠を押しつけてそのまま引きずられるように龍貴の視界からフェードアウトした。


＊


「せんさまー、どうしたですの？」

胸に笠を乗せたまま寝そべっていると姦しい妖精が顔を出す。

「お前こそどこ行ってたんだ。」

「ふへへへ…　それはですの！」

＼ばぁーん／　と、

「歴代庭ガールズコレクション！」

ですのー！と妙な雑誌を高らかに掲げる。

「vol.1からvol.8まで見つけたですの、きっとまだあるですの！！」

「飽きたらちゃんと処分しとけよ。」

「りょうかいですの！　たつきにたのむですの！」

どこぞの忍の苦労が絶えないな。

「それはそうとせんさま！」

「断わる。」

「せんさまも偶には違う服を着るですの！」

断わる。

そのつもりで、惰眠を貪ることにする。

俯いたまま、意気阻喪。必要以上に思い詰めている。

カツヱに手渡したら一瞬の隙にお茶が奪われた！飲まれた！

たつきはカツヱを宥めた。
茶々の遊びはいつものことであっても、その度に毎度心配をする。
カツヱが新聞を読み耽る間、再度給水場に向かう。

茶々対策用に、葛湯…ではなく、あまあまのカルピスが入ったコップを置いた。
カツヱには黒烏龍茶の入ったコップを。　これなら、大丈夫かな？

（ふとその言い回しが気に掛かり、この忍にしては珍しく相手について尋ねた）

（何だか良く分からない具体例をどこか遠い目で呟いた後、
目に余った場合は口を挟ませて貰うが、とこちらも付け加え）

せんさまー　みなみー　みてみてー　かめらあっぷですのー　ぶいっ！
めいんひろいん　いただき　ですの　　茶々！　おんすてーじ！