「金が必要です」

イサナが自身の大きなカバンの中身を広げながらそう呟く。

「何か売れそうなもの無いか、メルの目で見てくれます？」

そういうことか。頑丈そうな鋼鉄を思わせる無骨なカバンは
普段から厳重にロックされている。その中は気になっていたところだが…

「下着…多くないか？」

「はァ？何言ってやがりますか。せめて下着ぐらい日替わりでしょ」

まぁその気持ちは分かるが。
黒地に金の刺繍とか。赤地に黒のレースとか。

……………

「メル。人の下着をそんなジロジロと…」

「ふァ！？いやそんな！」

「いやぁ？別にアナタにならクンカクンカされてもイイんですよぉ」

「……………」

「ハハッ　そんなゴミ見るような視線もキライじゃないですよ」

何だかどっと疲れた。

イサナは何だかよく分からないガラクタや装飾品を並べ始める。

「この世界では、モノから力を引き出す『付加』というものが有るじゃあねーですか。
　そういう方面から見て、私のガラクタが再利用できないかと思いましてね」

「なるほど。これを調べていけば良いんだな」

並べられたモノをざっと眺めてゆく。

サイコロ。100と彫られた丸い金属。空の酒ビン。リップクリーム。
金属製のカップ。よく分からない粘液の入ったチューブ。裁縫道具。
洗濯ばさみ。長い不思議な材質の紐。蝋燭。首輪とリード。
黒い粘着テープのようなもの…

「今、鼻で笑いましたね？」

「いや、そんなことは無いって。ただ、付加で使えるものってのは
　たとえばその辺に転がっている石でも、魔力が篭ってるかどうかは
　ピンキリなんだ。…そもそもイサナの世界の物が使える可能性は
　限りなく低い気もする」

「まぁ…そうっすよね。何となく分かってましたけども」

「もういっそ、そっちの貴金属をそのまま売れば良いんじゃないか？」

「えぇー……」

イサナが「これはダメ」と横によけたモノの中には、
宝石やアクセサリーがゴロゴロしていた。

「この金のネックレスとか……相当いい値段付くんじゃ？」

「特注の純金スクリューネックレスですよ。
　目立つように盛りまくったら、値段が通常の１０倍くらいになって
　嫁にぶっ飛ばされましたよ。コレはダメ！売らない！」

リングが３個１セットになり複雑に編まれた、幅が１ｃｍに迫りそうな
恐ろしい代物である。しかも首に二巻きできる異常な長さ。
生半可な人間が付ければ悪趣味にしかならないが…

「イサナには無駄に似合いそうだな。
　趣味の悪さが逆にイサナの『それらしさ』を引きたたせている」

「ほっといて下さい。…アナタも中々言うようになりましたねぇ」

「他は。指輪がいっぱいあるなぁ」

「戦争中じゃなけりゃ、両手で１０個付けても良いんですけどね」

「そう言えば、イサナは格闘戦スタイルなのが意外だったな」
　
「そうです？　まぁ、私はグーで殴る以外何も出来ませんからね」

確かに、技とかスピードで戦うタイプじゃないみたいだが。
頑丈な肉体で真正面から敵の攻撃を受けきって、
腕力に任せて叩き潰すのがイサナの戦い方らしい。

「わざと相手の攻撃を食らいに言ってないか？
　そんないつも真正面から攻めていかなくても…」

「どうってことねーですよ。
　強者の貫禄ってのはそうやって演出するもんです」

「……まぁ。確かに、イサナのそんなところが私には頼もしい、かな」

「何ですか突然。おだててもそうでなくても、
　アナタにはイイ事沢山してあげますって」

「ん、いや…私は」

これは本当の事だ。普段は色々とアレなイサナだが、
ここ一番で。特に荒事となると頼りになる人だから。

「とにかくそっちの綺麗所はダメです。売り物じゃねーんですよ。
　とは言え。このままでは金が集まらないのはマズイ」

「商売人って言う割には、マトモな商品は持って無いんだな」

イサナはムッと口を結んで顔を逸らした。

「うるせーですよ。私は自分の腕力を売り込んでるんです。
　ほらっ金出しなさいよ金。私との契約料はよう」

そう言うとイサナは割りと真面目に頭を抱え始める。
そんな金を要する事が有っただろうか？
何かロクでもないことを企んでいるのだろうか？

「ふむ。一体何に使うつもりなんだ？」

「高い買い物があるんです。この世界に来た思い出に
　是非とも買って帰りたい。そんな美しいモノを…」

「詳しくは言ってくれないんだな…」

契約料か…。持ち合わせは少しあるが。
こんな容姿だから、人の中に混ざって生活していたから
それなりに金は持っていたりする。
生活費は人間よりもかからないからなお更か。

「契約料はともかく。何なら貸そうか？」

イサナは目の色を変えこちらに向き直る。
なにかもう…　目が若干血走っているのが何とも…

「恥を忍んで頼みます。金貸してくださいっ！」

「あ、おぉ…！？」

そこまで。あのイサナがそこまでするのか？
他人の弱みを突くのが生業のイサナが、他人に弱みを作るのか…！

「イサナ…何か大事な事があるなら、相談してくれ。
　出来るだけの協力は私もするから」

「有難う御座います！　い、いくらお貸し頂けますでしょうか！」

「自分は元々金なんて無くても問題ないし。コレだけ出せるかな」

財布から差し出した金額を見てイサナはとても嬉しそうな顔をしていた。

………久々に。人のイイ笑顔を見た気がする。少し複雑な気持ちだが。






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「まさかメルから助け舟を出してもらえるとは思いませんでしたねぇ。
　アレだけの額をポンと出してくれるなんて、チョロイのかマジに人生に金が要らないのか」

イサナは一人夜の街に居た。資金を手に目的の場所へ向かう。

「まぁ、今回ばかりは踏み倒すのは気が引けますねぇ。
　早くアレを現金に変える手段を見つけて返さないと」


ある店の前で足を止める。見上げ店名を確認するが間違いないようだ。




「ガールズバーなんて。いつ以来かしらねぇ」