ある日の昼下がり。

メルンテーゼのとある一軒家にて。

ドアのオブジェと化した翼のエンブリオ——アインザームは、微動だにせず部屋の様子を眺めていた。



本日の昼食は海老グラタン。

先日の攻城で巨大な海老に遭遇したせいか、同行者の１人、ティシアからのリクエストであった。

「食後のお飲み物は、紅茶でよろしいですか？」

食器の片付けを済ませ、落ち着いたところで、いつものようにアフタヌーンティーの伺いを立てる。

「うん。」

「えぇ、お願いするわ。」

かしこまりました、と頷き、慣れた様子で湯を沸かし始める。

ティシアに請われ、彼女の家の家事を任されてからすでに１週間。

この家のキッチンも、すでにガルのテリトリーと化していた。

いくつか実費で持ち込んだ茶葉の缶から一つを選んでいると、
その様子を見ていたティシアが首を傾げた。

「ガル、あの籠の中に入ってるの、何？」

示す彼女の指の先、キッチンの端には、ガルがいつも持ち歩いている買い物籠。

…から、かすかに覗く、柔らかな碧。

「あぁ、これは先日、ご主人のご友人の方からいただいたのですよ。」

そう言って、選んだ缶を脇に置き、籠の中からソレを取り出す。

「…これ、紙だよね？」

中から漏れる甘い香りは気にならないのか、包み紙の滑らかな手触りに首を傾げる。

「羊皮紙とも違うようね。」

「はい、ご主人の故郷伝統のもので、和紙と呼ばれるそうです。」

伝統的な漉き方で作られたものではない、いわゆる大量生産品のため、
厳密には「和紙風の紙」と呼ぶべきなのだろうが、
異世界人であるガルやティシアには、そこまで分かるはずもなく。

「開けてもいい？」

もちろん、とガルが返したところで湯が沸いたので、２人に背を向け、ポットとカップを温めるため、湯を注ぐ。

紙とは思えぬ薄く柔らかな手触りに、ティシアがおそるおそる包みを開けば、濃い赤の木の実に声が上がる。

「あ、酒の実。」

「お酒の実、ですか？」

その声に、きょとんと首を傾げる。

しかし手を止めることはなく、湯を捨て、温まったポットに茶葉をスプーン４杯。

再びポットに湯を注ぎ、３分蒸らす。

「うん、お酒の味がするから、酒の実。」

果実酒が入っている木の実だと、ソレをくれた少女は言っていたが、現地人にもそう呼ばれていたとは。

「正式にはリカー・ベリーと呼ばれているわね。
　かなり濃いから、生で食べるのはおススメしないわ。」

ガルが求めていた情報では無いと察したのか、エレアナが肩をすくめる。

「なるほど…では、夕食後のデザートは焼き菓子にしましょうか。」

その言葉に納得したように頷く。

ガルのことだ。　また手の込んだ焼き菓子を考えているに違いない。

「じゃぁ、タルトがいいな。　母さんがよく焼いてくれたんだ。」

「そのたびに、お父様はつまみ食いして怒られてたわね。」

「エレアナ…」

２人のやりとりにくすくすと笑いながら、カップに茶を注ぐ。

「では、そのように。
　ティシアさんのお母様のように、とはいかないかもしれませんが、
　今夜のデザートは、リカー・ベリーのタルトにいたしましょう。」

静かにカップを差し出しにっこりと笑う。

が、

「そんなことない、ガルの料理もすごく美味しいよ。
　…楽しみにしてる。」

ティシアの言葉にかすかに目を見開き

「ありがとうございます。
　そう言っていただけると、作り甲斐があります。」

少しだけ、誇らしげに笑った。

焦点が合わず、げっそりとした顔のカーフェイ。おぼつかない足を引きずるように彼を支えている女性が。

薄色の衣を纏った紅髪の女性。金瞳を細めながら妖艶に微笑む。

＞ご主人

＞ルーチェさん

（ガルはルーチェと顔見知りですが、カーフェイの嫁とは知らなかったようです）

＞カーフェイ君

目線をルーチェさんのお胸に下ろした瞬間、衝撃が走った。

水辺を歩いていると、銀色の髪の女性と青い髪の少女に会う。

恥ずかしそうに頭を下げる。

謝ったり、あたふたしたりと忙しそうに動いている

罪悪感が半端ない。

*何かを発見して嬉しそうだ*