「■■■■の風は、やんちゃだな！こんなふうに風を使うのは初めて見た！」

…私は旅をしていた。

あの日、私は選ばれた。そしてこう告げられたのだ。
「魔王を倒しに行く。力を貸してほしい。」
まっすぐな、強い瞳をした青年だった。

使者を寄越すでもなく、単身村を訪れた青年は
ディール国第一王子、トウスティヤ・ディール本人で、村は騒然となった。
そのうえ、その発言だ。

本来、私たち巫女の力は「国を守るための風」であって、戦いに使うものではない。
代々、優秀な巫女が選ばれ城に仕えるのが慣わしであり、
彼の言葉は理不尽なものであったはずだが、わたしは即座にうなずいていた。


「■■■■を選んでよかった。俺のカンは正しかったな！」
心底愉快そうに笑う、青年との距離感に戸惑いながらも、恐る恐る礼を返す。
「あ、ありがとうございます王子…。」

もともと、修練を積む上でいろいろと試してきたし、
自分は他の皆よりも「もともとある型を工夫してアレンジする」ことが好きだったから、
褒められるのは素直にうれしい。
…が、ふと見ると王子は不満げな顔になっていた。

「違う」
「え？」
「トーヤって呼んで。堅苦しいのやめて。」
「え？トー…ヤ王子？」
「トーヤでいいって！堅苦しいと俺、死んじゃうんだ！」
そういって、面食らうわたしをよそに、わたしの背中をばんばん叩いて笑った。


………