首に狙いを定めた私の意識を私の中に潜む殺意が襲う。
そう、私はただ走り抜ければよい。
武器化した腕が首のある位置を通りすぎればそれで全てが終わる。
そんな意識に飲まれていた私の視界は今を写していなかった。

周囲を彩る鮮血の中に多くの屍の上に何かが見え···それが何故か私だと解った。
それは私の存在意義がそこにあると思わせる情景。
そして何故か私にはそれが私の中にある本能だと···。

本能に従う···それは相手を死に至らせる···その意識が唯一の歯止めだった。
意識が現実に戻った時には私の足は地を蹴っていた。

叫びは空しく動き出した体をとどめることはできない。
咄嗟に袋から出したルリアンナ材を左手で持ち、武器化した手の進行方向へと投げつけた。
だが、ルリアンナ材では武器化した腕を阻むに至らず乾いた音がした。
そして肉に斬る感触···私は人を殺めてしまった。
後悔の念に打ちのめされていた。
そんな私を呼び覚ましたのは兵士の狂乱にも似た声···身の危険を察知したものが絞り出す声だった。
恐怖の為か無我夢中に武器を振り回す姿を見ながら私は

そんな事を考えていた。

兵士の傷は深く早い治療をしないと生命に関わる重傷であり、放置出来る状況でもなかった。
兵士を武器でひっぱたく事で気絶させた私はエンブリオの力で兵士の傷を癒すと慌ててその場から立ち去った。
それは私の心にあった後ろめたさだったのかもしれない。

さっちゃんの手は剣状に変化した