——前回拾った、エンブリオの話。

『…………♪』

もぐもぐと、生の魚を食べている。表情の変化こそないが、目がきらきらと輝いているので喜んでいるんだろう。
骨までばりばりと食っている。無口さに反して随分とワイルドだ。
尚、セイレーンの方にも目を向ける模様。……食べるの？

……名前を、訊いてみた。返事はなく、首を傾げられた。何だこいつ。
何か考えようと思うが、あいにくと私には致命的にネーミングセンスがない。
近いうちに、何か考えてあげよう。でないと私が困るので——そんなことを考えていた。

今回は細かい考察はナシ。気楽にしていないと、どんどんストレスが溜まるのだ。
何より、そもそも明るい性分じゃないので、下手に考え込むと疲労がより溜まっているように見え——あれ、そっちのほうがサボれてお得？
でもまあ、無用の心配をかけるのはよろしくない。実際は無用じゃないのかもしれないけど、まあ、ほら。病は気から、だったかな。心配ばかりされても、逆に気が滅入るっていうか。

気が滅入るといえば、今日も魚。適当な村でも探して野菜を分けてもらったほうがいいかもしれない。
……ああ。白いご飯が食べたいなあ。

大丈夫だ。私は何があっても『道具』であれる。
痛みも、違和感も、全て押し殺してみせよう。

まだエンブリオの扱いに慣れていないとはいえ、情けない。
ほんの少しばつの悪そうな表情で、そう言った。

「捕獲道具がない！！」その言葉を耳にした万已楽はまだ見られていることに確信を抱き
その発言者に目星をつけた
紫髪の人物を簡易分析...数瞬でそれは完了した

万已楽は紫髪の人物に向けて腕を向け　雷球を放つ
その雷球はフィアに当たる前に大きく弾け　雷の爆発が広がり万已楽の姿が隠れる
逃走のための目眩まし？
否、それは突撃のための布石でしかなく
爆発の中から万已楽が飛びかかり、フィアを捕らえようとする

……奇襲をするにはかなりおマヌケな言葉を放ちながら

　いつもどおり竹馬に乗って散策をしていると、ふと下の方から声が聞こえた。
人の肉声にしてはどこか違和感がある。
良く目を凝らして声がした方を見てみると、どうやら拡声器か何かを持っているらしい。
──おまけに、耳に引っかかる言葉をこちらに向けている。

　確認できる影は一つしかないが、そう言われるとそこここの草むらにいろいろ潜んでいそうな気配がする。
もしかすると雲に隠れて上空からも包囲されているのかもしれない。
このままでは犯罪者と間違われて打ち首になってしまう。何とか弁明を図らなければならない。

呆れたような声を上げるが、まぁ、何も無かったのでこれ以上は言わない。

そう言いながらおもむろに旅行鞄を開き、分厚い本と帯、腕輪、懐中時計のような物や、
箱っぽいもの、お札の束らしきもの、瓶に入った怪しい青い液体、妙な形の大根……etc
などを次々ととりだしていく。

そう言って白っぽい毛の束を置く。

正直何れも一揆に役立つかどうかは怪しい。

ポケットから出した手帳にさらさらと書き込み、それを見せる。

〜練習試合後〜

バイクの身にできる事など高が知れていようものだが。

そもそも普段からして時間の流れには疎いのだ。
ぼんやりしていた時間の事は、良く覚えていない。

——ずきん。
忘れていた胸の痛みが、私の体を苛む。

違う。気のせいだ。この痛みは、偽物だ。
小さくふう、と息をついて、私は微笑む。

まだ、胸が痛む。海象やセイレーン、兵士と戦う時にはなかった痛み。
——違う。気のせいだ。私はそう自分に言い聞かせ、心を律する。
そして、『仮面』をかぶる。彼らや仲間たちに、違和感を抱かせないため。

ぽつり。
呟きながら、剣を引き抜く。
正眼に構えた刃の向こう——濁った瞳の内に宿るのは、眼差しよりもなお鋭い光。

おもむろに柄から手を離すと、先程呼びかけた少女の肩に軽く手を置いた。