メタフィクションの定義について。

　メタフィクションとはただ訳するだけなら、虚構を高次から観察するための虚構という説明で事足りる。
虚構の中の現実（多くの小説はそれが小説であるということに触れず、あくまで登場人物は現実を生きている）の中で、その現実が虚構である（当然ながら現実を生きているように書かれていてもそれはただの作り話である）ことを突きつけ、現実と虚構の境界線を曖昧にする作劇法と言えるだろう。

　例を述べた方が分かりやすければ、さて、ひとまず脱線するとしよう。

　演劇の話である。

　演劇において、舞台と観客席の間に障害物は存在しない。もしそんなものがあるとすれば客は舞台で何が起こってるのか分からないのだから当然のことだ。よしんば音は聴こえるとしても、それがなんの慰めになるものか。であるからして観客と舞台の間にあるのはただひたすらに空気のみである。

　しかし、それであるのに、舞台上の登場人物は観客の存在に気づきもしない。これも当然の話である。舞台で演じられる物語では、観客なる人物など存在しないからだ。演者たちは物語通りに演じているわけであり、畢竟、物語が観客を考慮しない限りは、演者にとってそんな不可思議極まりない輩など存在しないのである。

　隔てるものがないはずなのに、確かに世界が隔てられている。
　観察者と観察対象の間に存在する非実在的な断絶性。これを「第四の壁」と呼ぶ。

　そして、メタフィクションの話である。メタフィクションはいわば上記の定義に対する反証だ。
　メタフィクションは観客の存在を前提として物語を構築する。

　登場人物が「自分はお話に書かれているだけで現実には存在しないんだ」などと至極当然な（だが虚構に作られた現実としては酷く狂った）提言をぶちまけたりする類のあれだ。突然物語の観察者（読者、視聴者、観客）に、話しかける類のあれだ。

　当然だが、登場人物が突如意思を持って観察者に気づくのではない。観察者すらも一人の登場人物なのだ。
　その物語にとっては。

　メタフィクションは自分が虚構であり、観客に見られるための存在であることに自己言及する物語である。
　メタフィクションを観察する限り、観客は物語の観察者と同時に自らの観察対象へと変貌せざるを得ないのだ——そのように物語が進むのだから。

　メタフィクションは第四の壁を破壊する。
　『観客など存在しない』という前提を破壊する。
　それはつまり『観客は存在する』という前提の創造であり生産である。
　それすなわち『我々は監視されている』という命題の証明である。
　それどころか『我々は存在しない』という生命の破壊である。

　常に監視者がいると分かってどうして生きられようか。誰かを楽しませるためだけの生誕を祝福できようか。他人に共感されるためだけの苦悩をどうして糧とできようか。
　どうして、どうして、どうして——さて、さて、さて。
　
　メタフィクションについては理解いただけたであろうか。
分からないのならば「常日頃監視されている創造物」程度の認識でよろしい。
長々とメタフィクションについて話はしたが、極論すればこれは実験生物の話でしかないのだから。


　要は、実験生物にも気晴らしする権利くらいはあってもいいだけの話である。