気がつけばエリカがいないというのに気付き、あの馬鹿は何処に行ったのかと
鉄男と二人でエリカを探して彷徨っていた所、声が聞こえた。
誰かと何か話しているような争っているとも取れる様な声の張りに
何かあったかとその声のする方向に走ると、姿が見えてきた。

そこにはエリカと生ゴミ甘栗がいて、何を話しているのかと思えば
エリカが甘栗に掴みかかっていた。おっエリカもついにその男の
クズ性に気付いたのかとちょっと嬉しくもなったが、
その掴まれた方がエリカの背に刀を突きたてようとしているのを見た途端
思わず拳を固めた状態でその男目掛けて一足飛びで殴り倒していた。


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勢いをつけすぎて止まるのにかなりオーバーランしてしまったが、
エリカは鉄男に任せようとそちらは見ず、殴り飛ばした男の方にそのまま歩み寄る。

「アニマちゃん激おこプンプン丸〜v」

激おこが過ぎて顔がにやける。飛ばされて倒れているしゃべる糞袋に
馬乗りになる。3ｔある自重で面白いように相手の体が圧迫されて
砕けていく音が聞こえてくる。押しつぶされた事で中にあったものが
上の穴から飛び出してきたのか、血なのか何か解らないものを吐き出している。
それを見ていつか別の少女の物だった時にテレビで
見た大蛇に締め上げられる豚のようだな。と懐かしい思い出に浸りながら
拳を振り上げ、刀を持っていた利き手だと思われる手首を潰す。

「え〜？何してくれちゃってるんですかぁ〜〜？？
もしかして女児相手に暴力ですかぁ〜？？？信じられませぇ〜んっ
私、あなたがそんなにクズクソだって思いもしませんでしたぁ〜、むねんむねん〜〜〜」

元々信用ならない死んだ羽虫みたいな目をしている男だとは思ったが
ちょっと目を離した隙にエリカを殺されそうになるとは思わなかった。
気を抜いた自分の責任といえばそうだが、腹が立つのも事実だ。

やっとエリカが幸せを掴んだのに、

やっと『本当のパパ』とこれから第二の人生を歩む筈なのに、

夢を叶えた子供に障害があってはアニマ自体も困るのだ。


このままこの目の前で血反吐を吐く相手を殺すのは簡単だがそれは選択肢に含まれていない。
倫理的な意味ではなく、八つ当たりという名の折檻が出来ないので死なない程度に
ボコボコにして、あわよくば一生のトラウマにでもなって生涯苦しまないかなと考える。
自分の体重で相手の上に乗っかっている時点でかなりの拷問だと言うのは解るが、
これ以上エリカに手を出さしたくなくなる程度に半殺しする方法…


ふと…そういえばこの男は人間ではなかったのか。
多少部位を取っても死にはしないかもしれない。
そう思いながらふと目の前にある腕の関節を持って捻じ切るように分離してみる。


痛がってはいるが、反応的には矢張り普通の人間より頑丈な気がする。
多分、普通の人間なら自分が腹に乗った時点で死んでいるような気がする。
大丈夫そうだと解ると、これ幸い。
残りの腕と足二本も分離しておくかと手をかける。
目の前の男から少しずつ人らしい面影消えて正に糞の詰った袋のような
状態になってくるとシルエットと言うのは大事だなと改めて造形の重要性に気付く。


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四肢をもぐと、目の前の男は完全に無力化し少し心が晴れた。
しかし、気がつけば主観的見ても子供にはややグロい場面ではあるので
精神衛生上宜しくない。
ここに塩でもあれば傷口にすり込んでやってエリカに
『見て下さいなエリカ、あれが前に絵本で見せた因幡の白兎ですよ〜ｖ』と
この場を和ませる１芸も出来たのだが今は塩を持っていないのが惜しい。


糞袋の動きを無力化出来た事を確認すると、この位すれば暫くは
この男も大人しくしているだろうと立ち上がる。
千切ったものはそこら辺に放って、漸く鉄男とエリカのいる場所に向かう事にした…

****


エリカは唐突にすがっていた天津国が吹き飛ばされ、やや呆然としていると
天津国を吹き飛ばしながら通り過ぎた後ろから鉄男がこちらに向かっているのが見え
その場でへなへなと膝をついた。

切られた指は凄く痛いが、それ以上に父親を失うかもしれないという事に
身体が震え、膝を付いて此方を見ている鉄仮面の男を見つめる。

ただ、エリカがそのまま無言で鉄男を見つめていると、
エンブリオを使い切断された指を探して治療をし始めてくれた。
その様子を見ながら、切られていないもう片方の手で鉄男の腕を掴み
震える喉から何とか声を絞り出して先ほどからぐるぐると頭の中で回っている
疑問を本人に問う。

「パパ…パパ……パパ…死んじゃうの？」

どうなのだろう、どうしてだろう。と、天津国に言われた言葉は半分も
理解出来なかった為本人に確認をとろうとした所、重い足音と共に
アニマが手を振り声をかけて来た事で中断された。




*****

「大丈夫ですかぁ〜？もう心配ないですよー
ごめんなさいねぇ〜、エリカがおばかさんなの忘れてて、
ちょっと目を離した隙に怖い思いさせてしまいましたね〜
でもエリカのパパも居ますしもう大丈夫ですよ〜」

立て込んでいるようにも見えたが、あえて空気を読まずに
返り血で汚れた服を軽く拭ってから声をかける。
言いたい事は山ほどあるが、今はとりあえず
この場所からは離れて落ち着いた場所に行こうと
エリカと鉄男を見ると、鉄男も同意のようで頷いた。
エリカは未だ反応が薄いが、同意とみなして自分も頷き返してから
もと来た場所へと足を進める。


この場所はもしもの時に後処理を頼んだ彼に任せれば良いだろう。

*****

細長く、明らかに人ではない人相の口の裂けた不気味な男、仮称であるがハーヴェイと言う名の男は
主であるエリカを探しに行ったアニマとは反対方向から
多分、おそらく、きっとこの先に彼女達がいるであろう場所だと思いながら歩いて向かっていた。


確定的に言えないのはこの男は自覚ありの超方向音痴である為、
アニマと少し遅れて森に入った辺りで既に迷い始めていた。
それでも走ることはせずに歩きながらのんびりと目的地を探していると
近くから聞き覚えのある女性の声がした。
この声の主は確か、同じパーティで、天津国達と同じ世界の人間だった筈…
そう思い至った男はそちらへ向かうと案の定、四肢をバラバラにされた血まみれの
天津国をポリ袋に入れながらボヤいている安野蝶子がいた。


「私が本気を出すのはコミケのダンボールくらいでこんな事に労働力裂きたくないんですよ〜」


言っている言葉の半分位が解らないが、確かに幾らコンパクトサイズに
なっているからと言っても青年サイズの男性を女性が運ぶというのは大変であろう。
彼女の言葉に納得しながら、男はそのポリ袋に入れられている人物が目的でもあった為


「コンニチハ、安野サン天津国サン。何ヤラ大変ソウデスネェ
ワタクシ、丁度出口ガ解ラズ迷ッテイタ所デシテ…
天津国サンヲ御持チ致シマスノデ、宜シケレバ同行サセテ頂イテモ？」


低く、落ち着いた声だが人とは異質なものを感じるトーンで喋る。
何分そう言う声だからどうにも出来ないのだが、よく知り合いでも怖がられる為
極力驚かせないように声をかけた。


「あらー……ハーヴェイさん！
　こんにちは、迷子なんですか？長身化物系男子でキャラ確立しているのにそこに迷子属性とか
　どんだけ萌えキャラ積んでるんですか是非喜んで持ってくださいやったー！」


唐突に声をかけられた彼女は此方に気付くと臆する処か嬉々として
話しかけてくる様子に男は「元気デスネェ、有難ウ御座イマス。」と頭を下げて礼を言うと
引きずっていた袋を受け取り、引っ張られるよりは良いだろうと
恐らく胴体部分であろう部位を横抱きにしてもち、袋から出ている顔と
目が合った相手にどうもと声をかけて裂けた口で笑った。



*****



「南瓜さん的には受けですか攻めですか、個人的には長身受けはありだとおもうんですよね！」

ゆっくりと歩きながら雑談をしていると、不意に安野がそう話を振ってきた。

「ソウデスネェ、会話ノドッチボール的ニハ受ケ手ニ回ッテカラノ攻メデスカネェ」

彼女が意図したい言葉はなんとなく一部の女性達の間で流行っているジャンルであろうと解ったが、
其処まで知識のある趣向ではない為、半端に返答するというのも失礼であろうと
男は会話に対する姿勢という意味で返答をすると
こちらからも質問をする。

「嗚呼、ソウデス。ワタクシモ御二人ニ御聞キ致シタイノデスガ…
コノ場所ハジキ無クナリマスガ御二人ハコレカラ如何サレルノデ？」


四肢がとれ、通常であれば明日があるのか、最早今日を生き残れるのかも不明な
重篤な人間がいる中、和やかにこれからの話をするのは中々にロックな現場だが
気にせずに聞くと横を歩く安野が返答をする


「これからですか？
そうですねぇ〜…もうちょっと辺りを観光しようかなあって。
先輩はー？」

「………。」

「わかんね。」

「まだお国の役に立つ云々引きずってたんですか。
成功しても失敗してもあの世界に損は無いですしはなから１学生にそんな期待なんてしてるわけないじゃないですか。
あ、すみませんこっちの話で。ところで貴方はどうされるんですか？」


彼女達の世界の事は断片的にしか聞き及んでいないが中々に
興味深い世界だというのは男はアニマから教えられていた。
成程、この天津国という男は自分の国の為に奮闘していたのか。
二人のやり取りを聞きながら考えていると話が振り替えされた。


「ワタクシデスカ？…ソウデスネェ、ワタクシハ用事ガ終リマシタノデ帰リマス。」

男は元々此処に留まれる身ではなく、アニマの持つ本の召喚で存在している状態であった。
彼女がこの場所でのやる事を終えたなら契約は終了になり元の場所に帰るだけだ。
完結にそう伝えながら、男は腕に抱いている天津国を見る


「シカシ、御話ヲ聞イテイルト天津国サンハ祖国ノ為ニ奮闘サレテイタノデスネェ…
何ヲサレテイタカハ解リマセンガ、コンナ身体ニナル程マデ頑張ラレル等
並ノ方デハ出来マセン、情熱的デ素晴ラシイ精神ヲ御持チダ。」


男が何を思って言ったかは解らないが、笑顔を浮かべたまま感慨深いという様な
トーンで言うと、相手の青年は少し間をおいて「ども」と返事をかえした辺りで
丁度森の出口に辿り着いた。


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