貧乏『神』なんて名前だけ。
他の敵は妖精と魔獣。
こんな戦闘すぐに終わると思っていた。

アラヤは降り注ぐ氷柱や氷塊を避けながらこの惨事の原因──ソウハに呼びかける。

ソウハは貧乏神に魔力の一部を奪われひどく動揺していた。
たしかに純粋な魔術師のソウハは魔力を全て奪われてしまえば何もできなくなってしまうが、そんなに大量の魔力を奪うには時間がかかる。
その前に敵を全滅させてしまうのは難しいことではない。
しかしアラヤが少し目を離した隙に、焦ったソウハは早々に決着をつけようと強大な術式を発動させた。
その術式は空間を歪め、あっという間に魔物たちを薙ぎ払い周囲を凍土に変えてしまった。
だが敵を全滅させても術式は収束することなく、氷の世界を作り上げていく。

術式を発動させた張本人のソウハは焦点のあっていない瞳で虚空を見つめたまま動かない。
身体には黒く淀んだ禍々しい靄が纏わりついている。

その様はかつての・・・二度目の契約時の自分と重なる。
常軌を逸した負の感情。
それが具現化して瘴気となる。
そしてその瘴気はあっという間に精神を蝕んでしまう。
そのことはアラヤがよくわかっている。

しかしこの状況ではそうもいかない。

氷雨をくぐり抜け、動こうとしないソウハを抱えると、術式の影響下から逃げるように飛び去った。

*----*----*

さきほどの場所が見えなくなるくらい遠くまできたので、ソウハを降ろして瘴気の除去を始める。

瘴気を取り込むために、氷のように冷たくなったソウハに手を触れる。
そして少しずつ瘴気を自分の中へと吸収していく。

ほとんどの瘴気を取り込み終わると、すぐにソウハは目を覚ました。
不思議そうにするソウハに、当たり障りのない範囲で起こったことを話した。
歪んだ空間から氷柱や氷塊が降り注いで敵を倒したこと。
そしてその術は魔術の範疇を超えていたこと。

すでに辺りはすっかり暗くなっていた。
そのせいか、ソウハは場所を移動したことには気がついていないようだ。

考え込むソウハにそれだけ言い残してその場を離れる。

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先ほどの野営地点から少し離れた川原で溜息をつく。
吐き出される息は冷気で白く染まっている。
よく見ると肌にも、うっすらと霜が付いている。
感覚を遮断しているはずなのに、凍えるほどのひどい寒気を感じる。
間違いなくソウハの瘴気を取り込んだ影響だ。
そしてこの瘴気を一晩かけて浄化しなければいけない。

先ほどよりもさらに大きな溜息がでた。

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次の日。

何事もなかったかのように、いつもどおり食事をとり移動する。

しばらく移動すると無数の反応を感知した。
数は・・・７つ。
見たことがないくらいの団体さまだ。
おそらく厳しい戦いが予想されるが、何よりも怖いのはソウハが焦って昨日の術を発動してしまわないかだ。

あれはただの人間が軽々しく使っていい術ではない。
ただ魔力を消費するだけではないのだから。

戦闘態勢をとるソウハの視線を感じる。
だいたい何を考えているかはわかる。

どれくらい力が戻っているのか、今の全力を試してみるいい機会かもしれない。
もちろん無理のない範囲で。