地に伏した仔竜を見下ろす。この竜はエンブリオだという噂を耳にしていた。その傍らにはサラマンダーの炎を受けて焦げ付いた大きな二枚貝が転がっている。つい先ほどの戦いの結果だ。
　「竜という種族の殆どは強大な力を秘めているものだ」と、かつてアンジニティで魔法の一端を教えてくれた師が語っていたことを思い出す。事実、これと似た種類の竜の召喚術は、随分と役に立ってくれていた。
　エンブリオの扱いにも慣れてきたという自負はある。意思のあるエンブリオとの契約を増やしすぎる事に対する恐怖もあった。ただ、生命力を与えすぎさえしなければ僕にも御せるだろうし、もし何かあったとしても、アニマやサラマンダーのような使役できるエンブリオで従えれば済むだけの話だ。

ラズロが引き連れるアンデッドを一瞥した後。

途中、不穏な空気を感じ取る。思わず口を止め、ラズロの挙動を観察する。その時…！

大きく踏み込む。ラズロの胸倉に向かって、手を目一杯伸ばしながら。

目一杯伸ばした手は空を切る。闇と虚空。何も掴めなかった。

ズダァンッ！　と、壁を思い切り殴り付ける。